2016年9月17日土曜日

JJのメッセージ 21

 再び部屋に戻ると、JJは既に眠っていた。
ライサンダーは彼女の会話用タブレットを手に取った。

 これがただの作文用ソフトしか入っていないって訳がないよな・・・

 彼は椅子に腰を下ろすと、タブレットをいじり始めた。メーカーはこれをJJに渡す時に沢山の制限を掛けていたし、機能も削除していたが、電話を見つけるのは案外簡単だった。電話に掛けられていた「保護者用」セキュリティもライサンダーはたやすく破った。
そして、ポール・レイン・ドーマーがダリルに送って来た端末を親に隠れてこっそり操作した時のことを思い出して、ポールの電話番号を入力した。
 ドーム内に直通なのか、ターミナルを経由するのか、わからなかったので、4回目のコールで男の声が聞こえた時は、流石に驚いた。

「レイン」

と冷たい声が名乗った。あの声だ。山の上の家で聞いた声だ。山道で、彼が銃撃した時に岩陰から呼びかけてきた声だ。
 ライサンダーは冷汗がドッと出るのを感じた。なんて言おう?
 沈黙を怪しんだのか、相手も黙り込んだ。まごまごしていると切られてしまう。ライサンダーは、カラカラに乾いた喉から声を絞り出した。

「ラムゼイが引っ越すって・・・」

 カチッと電話が切られた。
 ライサンダーはしばし呆然としてタブレットを見つめた。自分は今、何を言ったのだろう? ポール・レイン・ドーマーに何を言いたかったのだろう?
 突然、タブレットに着信があった。ライサンダーは震える指で受信操作をした。

「ダリルの息子か?」

 ポールの声が尋ねた。
 情けないことにライサンダーは気が動転してしまい、「ああ」としか答えられなかった。
ポールが言った。

「悪戯は止せ。早く親父の元に帰るんだ。」

そしてまた切られた。