2016年9月12日月曜日

JJのメッセージ 13

 ポール・レイン・ドーマーはドームの中に居た。今回の捜索は部下たちに任せて、自身は大嫌いな書類仕事を片付けることに専念だ。報告書や必要経費の請求書や業務計画書や、兎に角、見たくないけど見なければならない書類を読んで署名していく。
出世する度に、この手の仕事が増えていく。ポールは現場の方が好きだ。机の前に座っているのは苦痛だった。秘書が欲しいなぁ、とふと思った。5チームを束ねるチーフなのだから、十分秘書を持つ資格があるのだが、面倒だったので今まで上層部に申請してこなかった。

 申請書を書く時間が出来たら申請しよう。

 何事も書類なのだった。ポールはペンを投げ出し、席を立ってオフィスの片隅に備え付けられているポットへお茶を淹れに行った。ドーマーはカフェインを抜いた嗜好品しか飲んだことがない。コロニー人はとかく彼らを過保護に育ててきて、健康を害する恐れがある物は遠ざけられてきた。ポールは外で仕事をするようになって、初めてカフェインを含んだお茶が美味しいと知った。珈琲は苦くて好きになれなかったので、専らお茶を買ってきて飲んでいる。いろいろな種類のお茶があって、試してみるのが面白かった。
 ポットの横に、郵便物を入れる箱があって、封書が何通か入っていた。消毒処理された封書は、大半が養子縁組みに便宜を図って欲しいと言う嘆願書だ。妻になる女性が少ないので、男たちが養子を望んでいる。どうしても子供が欲しいのだ。ポールには理解出来ない感情だった。
 1通、変わった封書があり、中身は選挙用のチラシだった。ドーマーも国民だから選挙権はある、と考えられているのだろう。選挙に行ったドーマーの話など聞いたことがないが・・・。
 チラシを送って来たのは、現役大統領の陣営だ。次の選挙でも続投を狙って頑張っている。チラシはハロルド・フラネリー大統領の演説会の案内状だった。
 ポールはフラネリー大統領が嫌いだが、その理由は単純で、大統領が葉緑体毛髪の持ち主だったからだ。ポールと同じ、光線の具合で緑色に輝く綺麗な黒髪を持っている。ハロルドが生まれた時、ドームは葉緑体の因子を取り損なったのだろう。ハロルドの父親で元上院議員のポール・フラネリーも現在はすっかり白髪だが若い頃は緑に光る黒髪だったと言う。
 フラネリー大統領は、ドームにクローン技術の開放を求めていた。彼の母親はクローン技術を用いた自然界の再生プロジェクトに賛同し、熱心に野生生物の復活活動を支援していた。ドームの優れた技術で地球を元通りに戻したい、と言うのが、フラネリー家と支持者の希望だった。
 ドームは政治に口出しはしない。そして、技術を公開するつもりもなかった。メーカーに悪用されるのは目に見えていたから。
 ポールはチラシで飛行機を折ると、ゴミ箱に飛ばし入れた。
 そこへ、捜索から戻ったチームのリーダーが面会を求めて来た。報告書が電送されて来ていたので、直接面会を求めるのは珍しい。帰投組は早くアパートに帰って休みたいはずだ。ポールは部下の疲労を心配して、直ぐに面会許可を出した。
 オフィスに入ってきた部下は、開口一番、ポールを驚かせた。

「4Xを発見しました、チーフ!」