2016年9月4日日曜日

捕獲作戦 12

 クラウスはポールより冷静だった。ポールにベッドスプレッドをヘリに持ってくるように頼んで、ダリルを抱え運んで行った。
ポールは彼の要求の意味を深く考えなかったが、キルティングを掴んだ時に、布に付着した小さな血痕や体液の滲みに気が付いた。

DNAを残すな、と言うことか・・・

 クラウスはそこで何が起きたのか、察したのだ。多分、俺を軽蔑しているだろう、とポールは苦々しく思いながら、布をヘリへ持っていった。
クラウスは何食わぬ顔でそれを受け取り、座席に座らせたダリルの体にかけた。
そして尋ねた。

「子供は、貴方の遺伝子を受け継いでいるんですね?」
「いや・・・いや、そうだ・・・恐らく、両方だ。」

 ポールは巧く説明出来なかった。彼はライサンダー・セイヤーズを全く知らない。同じ葉緑体毛髪を持っているとしか、わからないのだ。何処までダリルの能力を受け継いでいるのだろう。それがある種の脅威だった。進化型1級遺伝子は、世代を重ねる毎に進化する。劣勢遺伝子なので、女性はX染色体がホモでなければ発現しないが、男性はヘテロで発現する。恐らく、セイヤーズ一族の女性が代々受け継いで、誰にも気づかれぬまま、進化も止まったまま、ダリルが生まれたのだ。
 クラウスはポールをじっと見つめ、兄貴が言葉を濁した意味を考えた。そして、ハッと気が付いた。

「単体クローンじゃないんですね?」

 ポールは渋々認めた。

「ダリルは俺と自分のを混ぜやがったんだ。」
「そんな技術を持つメーカーなんて・・・」

いないと言おうとして、クラウスは口をつぐんだ。一人いたではないか、元コロニー人のメーカーが・・・
 ポールは自動車のエンジン音が山道を上がってくるのを耳にした。

「部下たちが来る、君はもう行ってくれ。」