ラナ・ゴーンは、ダリル・セイヤーズ・ドーマーが教えられたはずのないセキュリティシステムのコードをいつの間にか知っていることに驚いた。 ダリルがアナトリー・ギルをぶん殴った直後だ。彼女が何に驚いたのか、当のダリルは全く理解出来ないで、彼女が保安課の最高責任者ロアルド・ゴメス少佐を端末で呼ぶのを眺めていた。
ゴメス少佐は元宇宙連邦軍特殊部隊の精鋭だった。部下が起こした事故で負傷し、療養中に地球の映画を見て、何故か無性に宇宙生活が空しくなって退役した。単身で地球へ来て、「地球人復活委員会」に再就職、アメリカ・ドームの保安を任されることになって3年目だった。
ラナ・ゴーンから呼び出された理由を聞いた彼は、事の重大さにすぐ気が付いた。直ちにケンウッド長官に通報し、ハイネ遺伝子管理局局長と交えて長官室で最高幹部4人は話し合った。
4人の最高責任者の認証の元にマザーコンピュータを呼び出し、ダリル・セイヤーズ・ドーマーのハッキングが判明した。
「遂にやりやがった!」
ダリルと同じ進化型1級遺伝子保有者のハイネ局長が頭を抱えて呻いた。教えられなくても、先祖の記憶を遺伝子が持っている。何の記憶を持っているのか、それはそれが発揮される瞬間でなければ本人にもわからない。
「セイヤーズは、ドームコンピュータを開発した技術者の子孫なんだ・・・」
教えられなくてもコンピュータのデータベースに侵入する方法を知っている訳だ。
問題は、ダリルがこのハッキングで何を知ろうとしたかだが、それはラナ・ゴーンが知っていた。彼はただ息子の消息を知りたかっただけなのだ。その為に、見なくても良いデータを全部見て、全部記憶した。
ダリルがデータを悪用する人間でないことは、わかる。しかし、将来また同じ様に無意識にデータを使って問題を起こす可能性がないとは言えない。
宇宙連邦軍特殊部隊に籍を置いた経歴のあるゴメス少佐が提案した。
「1日分の記憶を消そう。それしかない。」
ケンウッド長官は反対した。失敗すれば廃人にしてしまう恐れがあったから。
ラナ・ゴーン副長官は、ダリルが息子を心配する気持ちがわかった。少年が川に落ちて行方不明と言う報告を読んでしまったはずだ。その記憶を消して気持ちを楽にしてやりたかったので、彼女は賛成に票を投じた。ハイネ局長も賛成側だった。進化型1級遺伝子がドームの外に出せないのは、この手の「事故」を防ぐ為だ、と彼は理解していた。この手の遺伝子が拡散してしまったら、地球上の「セキュリティ」と言う言葉の意味が失われてしまう。
ダリル・セイヤーズ・ドーマーは睡眠薬を与えられ、そのまま脳神経科の手術室に運ばれた。月にある宇宙連邦軍の病院から、急遽脳神経科の医師が到着したのはその半時間後だった。
「処置は成功したはずです。でも、セイヤーズはそれから2日間意識を取り戻さず、3日目に目を覚ましてからは人形の様に動かず、ただ呼吸しているだけでした。処置を施した医師は、彼の意識を呼び覚ます起爆剤があれば元通りになると言いました。」
「何故、すぐに俺を呼んでくれなかったんです? こんなになる迄放置して・・・」
ポールの抗議に、ゴーン副長官は肩をすくめた。
「貴方が彼の息子を探し出して連れて来るのを待っていたのです。」
「俺よりガキの方が効き目があるとお考えなんですね。」
ポールは皮肉っぽく笑った。ゴーンは悪びれた様子もなく、
「親子3人の対面の方が感動的でしょう。」
と言った。ポールはカッとなった。初めて上司に憎悪を感じた。手に力が入ったのだろう、ダリルが囁いた。
「痛いぞ、ポール・・・」
その一言がその場を救った。ポールはダリルを抱きしめて、その空白に近い感情を感じ取り、自身の気持ちを静めた。ラナ・ゴーンは、ダリルがポールに優しく囁くのを聞いた。
「怖がらなくていい、ポール。私がここにいるから・・・」
ゴメス少佐は元宇宙連邦軍特殊部隊の精鋭だった。部下が起こした事故で負傷し、療養中に地球の映画を見て、何故か無性に宇宙生活が空しくなって退役した。単身で地球へ来て、「地球人復活委員会」に再就職、アメリカ・ドームの保安を任されることになって3年目だった。
ラナ・ゴーンから呼び出された理由を聞いた彼は、事の重大さにすぐ気が付いた。直ちにケンウッド長官に通報し、ハイネ遺伝子管理局局長と交えて長官室で最高幹部4人は話し合った。
4人の最高責任者の認証の元にマザーコンピュータを呼び出し、ダリル・セイヤーズ・ドーマーのハッキングが判明した。
「遂にやりやがった!」
ダリルと同じ進化型1級遺伝子保有者のハイネ局長が頭を抱えて呻いた。教えられなくても、先祖の記憶を遺伝子が持っている。何の記憶を持っているのか、それはそれが発揮される瞬間でなければ本人にもわからない。
「セイヤーズは、ドームコンピュータを開発した技術者の子孫なんだ・・・」
教えられなくてもコンピュータのデータベースに侵入する方法を知っている訳だ。
問題は、ダリルがこのハッキングで何を知ろうとしたかだが、それはラナ・ゴーンが知っていた。彼はただ息子の消息を知りたかっただけなのだ。その為に、見なくても良いデータを全部見て、全部記憶した。
ダリルがデータを悪用する人間でないことは、わかる。しかし、将来また同じ様に無意識にデータを使って問題を起こす可能性がないとは言えない。
宇宙連邦軍特殊部隊に籍を置いた経歴のあるゴメス少佐が提案した。
「1日分の記憶を消そう。それしかない。」
ケンウッド長官は反対した。失敗すれば廃人にしてしまう恐れがあったから。
ラナ・ゴーン副長官は、ダリルが息子を心配する気持ちがわかった。少年が川に落ちて行方不明と言う報告を読んでしまったはずだ。その記憶を消して気持ちを楽にしてやりたかったので、彼女は賛成に票を投じた。ハイネ局長も賛成側だった。進化型1級遺伝子がドームの外に出せないのは、この手の「事故」を防ぐ為だ、と彼は理解していた。この手の遺伝子が拡散してしまったら、地球上の「セキュリティ」と言う言葉の意味が失われてしまう。
ダリル・セイヤーズ・ドーマーは睡眠薬を与えられ、そのまま脳神経科の手術室に運ばれた。月にある宇宙連邦軍の病院から、急遽脳神経科の医師が到着したのはその半時間後だった。
「処置は成功したはずです。でも、セイヤーズはそれから2日間意識を取り戻さず、3日目に目を覚ましてからは人形の様に動かず、ただ呼吸しているだけでした。処置を施した医師は、彼の意識を呼び覚ます起爆剤があれば元通りになると言いました。」
「何故、すぐに俺を呼んでくれなかったんです? こんなになる迄放置して・・・」
ポールの抗議に、ゴーン副長官は肩をすくめた。
「貴方が彼の息子を探し出して連れて来るのを待っていたのです。」
「俺よりガキの方が効き目があるとお考えなんですね。」
ポールは皮肉っぽく笑った。ゴーンは悪びれた様子もなく、
「親子3人の対面の方が感動的でしょう。」
と言った。ポールはカッとなった。初めて上司に憎悪を感じた。手に力が入ったのだろう、ダリルが囁いた。
「痛いぞ、ポール・・・」
その一言がその場を救った。ポールはダリルを抱きしめて、その空白に近い感情を感じ取り、自身の気持ちを静めた。ラナ・ゴーンは、ダリルがポールに優しく囁くのを聞いた。
「怖がらなくていい、ポール。私がここにいるから・・・」