2016年9月19日月曜日

牛の村 11

 ライサンダーはポールから視線を外した。この男は少年が自分の遺伝子を使って創られた息子だと知っているのだろう。でも一言もそれには触れない。きっと認めたくないからだ。遺伝子管理局の幹部ともなれば、クローンの息子がいるなど、恥としか思えないはずだ。

「俺は、親父を取り戻したい。」

ライサンダーはためらった。

「あんたを人質にして交換を要求する。」

 ポールが独り言の様に呟いた。

「それは無理だ。」
「どうしてだ?!」

ライサンダーは立ち上がった。大声を出してしまったので、見張り役が外から「どうした?」と声を掛けた。彼は慌てて、「なんでもない」と答えた。

「今、捕虜に尋問しているんだ。」
「尋問? おまえにそんな役目を与えたのか、ジェリーが?」
「ジェリーは関係ない。俺はドームって所を知りたいだけだ。」

すると見張りは「捕虜を殴るなよ」と言って、それきり沈黙した。
捕虜を殴るどころか、捕虜に投げ飛ばされたライサンダーは、ポールを見下ろした。
ポールが彼を宥めるように言った。

「ダリル・セイヤーズは、俺より価値があるドーマーなんだ。そして危険な要素も持っているドーマーだ。進化型と言ってな、地球人にはないコロニー人の遺伝子を持っている。現在の段階の地球に拡散させることは出来ない能力を持つ。だから、本人も納得してドームに残ることを決心した。」
「嘘だ・・・」

 ライサンダーはポールの言葉がよく理解出来なかった。わかったのは、最後の1文だけだ。

「親父は外の暮らしが好きなんだ。あんたは嘘を言ってる。親父を独り占めしたいから・・・」

 ライサンダーはポールに接近し過ぎた様だ。ポールがすっと立ち上がったと思ったら、いきなり抱きしめられた。唇にキスをされた。ライサンダーは気が動転しそうになった。ポールのキスは彼の全身の血を逆流させるような、体がとろける様な激しいものだった。
 キスは、始まった時同様、不意に終わった。
 ポールは彼を突き放し、自分でベッドの上に横になると背を向けた。

「おまえは普通の子供だ、ライサンダー。ダリルの能力も俺の力も持っていない。そう強くアピールしろ。自由に生きたければ、ドーマーの血と関係ないと周囲に宣伝しろ。誰もおまえに関心を持たないようにするんだ。」

 ポール・レイン・ドーマーは、ライサンダー・セイヤーズを我が子と認めた。