2016年9月4日日曜日

捕獲作戦 13

 アレクサンダー・キエフ・ドーマーから衛星画像の分析結果が端末に送信されて来た。
2人の人物が山の中を移動している。北を目指している。
拡大すると、1人は女性の様だ。
 ポール・レイン・ドーマーは部下達の端末にも同じ情報を分けた。
部下は2チームで、クラウスが不在なので、全部で9人。第2チームに山を下りて北の街道へ廻るように指示した。子供たちは徒歩だから、山を下りたらヒッチハイクでもして逃げるだろう。
 第1チームはポール自身が指揮して山道を追跡することにした。
子供たちの現在位置は、ダリルの家から歩いて1時間ほどだ。恐らく地元の利で道を知っているのだろうが、管理局は近道を端末で計算させて先回り出来る地点を割り出した。
ドーマーたちは山狩りに未経験だったが、体力はあったし、衛星から見守られている安心感で山に突入した。もし子供たちを捕まえられなくても、山を下りて仲間に落ち合える。
 スーツ姿で革靴の男たちが山の中を歩いて行くのは、一種異様な光景だった。各自、麻痺銃を携行していて、時々端末を覗いては位置確認をする。

 ポール・レイン・ドーマーは、川を見下ろす崖に沿って付けられた細い道で、遂にライサンダーとJJに追いついた。
 先に追跡者の気配に気が付いたJJが、ライサンダーの手を掴んで教えた。ライサンダーは後ろを振り返り、ポールの坊主頭を見た。

「逃げろ、JJ!」

彼は叫んで、ポールに向かって発砲した。ポールは少年が銃を所持していると気づいた時点で岩陰に身を隠したので、難を逃れた。手で後ろの部下に隠れろと合図した。
ライサンダーが走り出したので、岩陰から出て追った。
ライサンダーはまた振り返り、撃ってきたが、当たらなかった。射撃の腕はまだまだだな、とポールは思った。多分、ダリルの腕以下だ。それとも、ダリルは息子に射撃を教えていなかったのか?
 ポールは少年が3度目に撃ってきた時、岩に身を隠しながら怒鳴った。

「撃つな! 今度撃ったら、二度と親父に会わせてやらんぞ!」

 銃撃が止んだ。ポールはさらに言った。

「おまえの親父は捕まえてある。今日中に管理局本部に身柄を送る。おまえが逃げれば、二度と会えないと思え。」

 返事がない? と思った次の瞬間、ポールは山側の岩の上に気配を感じた。
振り向きざま麻痺銃を銃撃すると、ライサンダーが道の上に転がり落ちてきた。
しかし、気絶はしないで、川の方へ足を引きずりながら走り出した。麻痺光線が当たった訳ではないのだ。

なんてガキだ、気配を消して俺に接近するなんて・・・

ポールの横に来た部下の1人が、ライサンダーの背中に照準を合わせた。標的の位置が良くない、とポールが彼を制止しようとしたが、部下は撃った。
光線はライサンダーの背中に命中し、全身の麻痺に襲われた彼はよろめき、そのまま道から外れて川へ落ちた。
「拙い!」と部下が叫び、ポールは当然だろうと思いつつ、崖っぷちに駆け寄った。
茶色に濁った水が勢いよく流れていた。濁流の中にチラリと人影が見えたが、すぐに消えて行った。