2016年9月25日日曜日

トラック 9

 ライサンダーが運転席に乗り込み、ジェリーが助手席に座った時だった。
 1台のセダンが後方から走って来て、横を通り過ぎてから急停止し、バックで戻って来たのだ。 ジェリーが警戒して上着の下に隠している銃を手にした。ライサンダーはシートベルトを外した。

「俺が様子を見るよ。」

 セダンがトラックの左横に停まった。窓が開いて、1人の男が顔を出した。

「ちいっと道を聞きたいんだけど・・・」

 ドレッドヘアの肌の浅黒い若者だ。ライサンダーはドアを開けてトラックから降りた。高いところからでは話がしにくいし、相手の様子がわからない。
 相手が武器を持っている危険もあったので、距離を置いて様子を伺った。

「何処へ行きたいんだ?」
「セント・アイブス・メディカル・カレッジ。ローズタウンから来たんだけど、ずっと同じ風景なんで、自信がなくなってさ。分岐で曲がる方向を間違えたかなぁ?」

 ドレッドヘアの男は原色の派手な模様が入ったシャツを着て、サングラスを掛けていた。頭にはこれまた原色の小さな帽子を被ると言うより載っけている。首から提げた金色の鎖のネックレスは3本だ。

「うん、この道でいいよ。」

ライサンダーは今までこんな派手な男は見たことがなかったので、ちょっと興味が湧いた。

「あんた、ミュージシャンかい?」
「まぁ、そんなとこかな。」

ドレッドヘアは笑って、自分の車の運転席の男を紹介した。

「僕ちゃんの運転手。」
「へぇ、運転手付きなのか。」

 ライサンダーは何気なく身をかがめてセダンの向こう側の運転席を見た。運転手らしいダークスーツにネクタイを締めた、サングラスの男がいた。こちらはブロンドの白人で、ライサンダーの動きに気が付いて振り向いた。そして片手を揚げて、「よお!」と挨拶した。
 ライサンダーは心臓が停まるかと思った。その声は忘れもしない父の声だったからだ。
 ドレッドヘアがカラカラと笑った。

「ミュージシャンの運転手を初めて見たのかい? 田舎の兄ちゃんは初心だねぇ。」

 その笑い声で、ライサンダーは救われた。我に返って、背筋を伸ばした。

「田舎者を馬鹿にするなよ。道はこれで合ってる。さっさと行っちまいな!」