2016年9月14日水曜日

JJのメッセージ 16

 キエフをやっとの思いで追い払ったポール・レイン・ドーマーは、もう書類仕事をする気分でなくなった。
 ライサンダー・セイヤーズが生きているらしい。
 彼は謎の老人とその仲間と行動を共にしているらしい。
 ベーリングの娘も同じ所にいるらしい。
全部「らしい」の推測だが、それでも幾分か気分が楽になった。これでダリルと顔を合わせることが出来る・・・かも知れない。ダリルが植物状態から覚醒してから、まだ会いに行っていなかった。ラナ・ゴーン副長官は見舞いに行っても良いと許可をくれたのだが、ライサンダーの行方不明の件がある間、ポールはどうしても医療区に足が向かなかった。
ダリルから息子の消息を尋ねられたら、と恐かったのだ。
 今夜はもうアパートに帰って寝よう。机の上を片付けて端末の電源を落とそうとすると、電話が着信した。発信元は医療区だ。
 ダリルに何か異変でも? 急いで通話ボタンを押すと、当のダリルの声が流れて来た。

「やぁ、ポール、まだ残っていたんだな? 忙しいか?」

あっちはやけに楽しそうな声だ。ポールは一瞬でも焦った自分が嫌になった。

「もう引き揚げるところだ。こんな遅い時間に何用だ?」
「明日の朝、時間空いているか?」

明日は先刻の第5チームの報告を元に農家に家宅捜査に入る相談を残り4チームで行うつもりだった。しかし、相手は他ならぬダリル・セイヤーズ・ドーマーだ。

「9時迄に終わる用事だったら、時間を割いても良い。」
「1時間程度で終わるさ。 7時半に医療区の食堂へ来てくれないか?」
「医療区の食堂?」

 意味がわからない。

「俺は病人じゃないから、入れないぞ。」

出産で収容されている女性中心の食堂だから、ドーマーは傷病者でなければ利用出来ないのだ。しかしダリルは、

「長官の許可は取ってあるから、フリーパスで入れるさ。」

と言った。

「場所が場所だからな、スーツで来るなよ。中に居る人間は全員寝間着だ。せめて普段着で来てくれ。」
「一体、何をするつもりだ?」

すると、ダリルの返答は驚くべきものだった。

「女たちと朝食会だ。 合コン だよ、ポール・レイン!」