2016年9月22日木曜日

トラック 2

 ライサンダーが乗ったトラックの荷台は、緩衝材で包まれたガラス容器などが積まれており、人間が座っていられるスペースはあまりなかった。つまり、3人で一杯だったのだ。既にメーカーたちがポール・レイン・ドーマーを真ん中に座らせていたので、ライサンダーとJJはその両脇に座ることになった。ポールは端に移動してやろうと言う気持ちはなく、また気力もないのか、若者たちにはさまれても我関せずと言う風情だった。しかし、トラックのエンジンがかかると、ライサンダーの方へ少しだけ腰を動かして移動した。ライサンダーは自分に何か話しがあるのかと思ったが、ポールはJJと肩が触れると女性に失礼だと思っただけだった。
 荷台内に空調はなかった。申し訳程度の換気口があるだけで、酸欠は免れるらしい。薄暗い照明が点いていた。トラックの揺れでダートの山道から舗装路に入ったとわかった。
 JJがタブレットに文字を書いて、ライサンダーに見せたが、それはポールの目の前に提示するのと同じだった。

ーー何処へ行くのかしら?

「俺も知りたいよ。東だったらいいけど。西ならドームから遠ざかってしまうから。」

ーー博士はどれだけ隠れ家を持っているのかしら?

「沢山持っていないことを祈るね。一箇所だったら、君と離されずに済むし。」

右側からタブレットを突き出され、左で言葉で返事が来る。ポールは目を閉じて、少年の声も出来るだけ無視しようと努力した。抗原注射の効力は後半日だ。体力を無駄に使いたくなかった。すると、ライサンダーも

「後で運転を代われと言われているんだ。ちょっとだけ眠るよ、ごめん。」

とJJに断りを入れた。
 荷台内に沈黙が訪れた。トラックのタイヤの単調な揺れを感じていると、ポールも眠気に襲われた。
 不意に右腕のジャージの上からJJが腕を掴んだ。目を開いて振り向くと、JJと視線が合った。何か? と目で問うと、彼女がタブレットに文字を入れかけた。ポールは小声で言った。

「手を直接握って、言葉を頭の中で呟いてくれ。」

 JJの柔らかな手が彼の手をそっと握った。

ーーこれで良いの?

「それで良い。」

ーー貴方を助けたら、貴方の友達はラムゼイをやっつけてくれるかしら?

 かすかに親の死を悼む感情が流れて来た。悲しみ。疲れている時はごめん被りたい感情だ。ポールは言った。

「ラムゼイの組織は叩き潰す。」