2016年9月21日水曜日

牛の村 18

 遺伝子管理局の局員たちは腋の下の皮膚下に発信器を埋め込んでいた。18年前、ダリル・セイヤーズ・ドーマーが逃亡してから、ドームが局員たちの所在地を常時把握しておくために始まった処置だ。
 ダリルはその処置を施され、寝間着から制服とも言えるダークスーツを始めとする衣服と靴をもらった。その格好で田舎へ行けば、管理局かその筋の役人だとばれるだろうと心配すると、クロエル・ドーマーが、変装は現地調達で行う、と暢気な顔で言った。
 局長は局の会議室にポールの北米南部班のチームリーダーたちを招集していた。
彼らはダリルの顔馴染みで、チーフ・レインの災難を既に知らされていた。夜中にもかかわらず、彼らは命令さえもらえればすぐに現地へ飛んで行きたい様子だった。
 局長は、彼らに救出作戦の指揮は、クロエル・ドーマーが執る、と伝えた。

「ワグナーではないのですか?」
「ワグナーはメーカーに顔を知られている。ラムゼイが何ら取引を持ちかけて来ない以上、人質救出は正面から交渉しても難しいだろう。だから、敢えて中米班の人間を用いる。」

 クロエルが「よろしく〜」と挨拶した。彼の軽薄な態度はドーマーたちの間で有名らしく、チームリーダーたちの間に、大丈夫か? と言いたげなムードが漂った。
指揮官が誰か、ともめることはなかった。サポート役にダリルが加わると聞いた時だけ、彼らは驚いた。ダリルは2度とドームの外に出ないと誰もが信じていたからだ。

「発信器を埋め込んだから、セイヤーズは管理局の人間に戻った。もう研究所には返さない。 これ以上執政官の夜の相手はさせないぞ。」

と北米北部班チーフが言った。

「ドーマーは種馬じゃないからな。」

とダリルを赤面させたのは、局長その人だった。

「さて、指揮官紹介はこれ迄にして、作戦会議と行こう。ラムゼイは、管理局が接触してきた以上、ぐずぐずしてはいまい。明日・・・今日にも動くはずだ。移動の最中に彼らを抑えられないものかな。こちらは、レインの発信器から出る電波と、セイヤーズの息子が電話で使ったラムゼイの端末のGPSで連中の位置を掴んでいる。
 ルーカス・ドーマー、君がヘリで飛んだ時に見た情報をみんなに説明してくれないか。」