外からドームへ電話を掛けると、直通に見えるが、実際はターミナルの機械を経由している。ドームの壁を形成する特殊素材が電波を通さないから、内からも外からも直通で電話を掛けるのは不可能なのだ。
出産で収容される女性たちは、ドームの入り口にある受付棟で持ち物全てを預けなければならない。消毒の手間を省くのと、内部で私物の紛失などのトラブルが起きることを防ぐのが目的だ。だから電話は、公衆電話使用となる。外から掛けるのが大変厄介になるので、「通話時間」が設定されており、女性たちは1日のある時間、グループ毎に電話が設置されているホールに集まり、家族との会話を楽しむ。
ドーム内の住人たちは、各自の個人番号を成人した時に与えられる。仕事用と私用の2つあって、それぞれ番号の組み合わせで外線と内線の2通りに使えるので、結局のところ1人に4通りの番号があるのだ。
ポール・レイン・ドーマーは、私用の外線を滅多に使わない。外に友達がいないせいだが、仕事で彼と話しをしたい人間が多いのも確かで、だから専ら仕事用外線を使う。
私用外線を使ったのは、ダリルに与えた端末が初めてかも知れない。
だから、非通知で私用外線に掛かってきた電話に彼は驚いた。直ぐに「発信元解析」を押すと、見知らぬ番号が出た。市外局番は、ニューシカゴだ。
通話ボタンを押すと、無言だ。荒い、緊張した様な呼吸音が聞こえた。
悪戯にしては遠距離過ぎる、と思った時、若い男の声がした。
「ラムゼイが引っ越すって・・・」
ポールは電話を切った。悪戯か、罠か、それとも・・・?
あの声には聞き覚えがある。それに、この番号を知っている、あるいは知ることが出来る人間は1人しか思いつかない。
彼は確認の為に、掛かってきた番号に返信した。
向こうはためらったのか、少し間を置いて出た。名乗らないが、やはり緊張した呼吸音が微かに聞こえた。
ポールは、相手が誰なのかわかった、と言うことを伝えた。
少年から何か情報を聞き出す手もあったが、恐らくそれはライサンダーを危険な目に遭わす可能性が高いだろうと判断して、短い言葉を伝えて切った。
切ってから、番号を登録し、位置登録もした。これからライサンダーがその端末を持ち歩く限り、少年の位置がわかるはずだ。
ラムゼイが引っ越す。 恐らく、隠れ家を移すのだ。 農家の家宅捜査を急がねばなるまい。
ポールは急にダリルに会いたくなった。深夜だったが、彼の地位ならドームの大方の場所に時間に関係なく入れる。 ポールはダリルが医療区を退院してクローン観察棟に再収容されたことを知っていたので、アパートを出て向かった。
ダリルは、女性執政官と「お仕事中」だった。ドアをノックしてから開けたのだが、執政官に睨まれた。それならそうとノックした時点で断ってくれれば良さそうなものを、とポールは恨めしく思いながら、廊下で待った。
10分ばかりして、執政官が部屋から出て来た。ポールを見て、クスクス笑った。
「いつ現れるかと、みんなで賭けをしていたのよ。」
彼女は、ダリルの子種を採取したカプセルを保温容器に入れていた。
「あなたのものも、採取してみたいわね。」
「俺のは不良品ですよ。」
ポールはぶっきらぼうに言った。
「男しか作れないんでね。」
失礼、と言って、室内に入った。
ダリルはくたびれたのか、横になったまま彼を迎えた。
「夜中に何だ?」
「別に・・・」
ポールはベッドの縁に座って、ダリルを横目で見た。
「いい思いをしているんだろ?」
「まさか・・・」
ダリルは眠くなって目を閉じた。
「本番なんてないんだから・・・空しいだけだよ。」
出産で収容される女性たちは、ドームの入り口にある受付棟で持ち物全てを預けなければならない。消毒の手間を省くのと、内部で私物の紛失などのトラブルが起きることを防ぐのが目的だ。だから電話は、公衆電話使用となる。外から掛けるのが大変厄介になるので、「通話時間」が設定されており、女性たちは1日のある時間、グループ毎に電話が設置されているホールに集まり、家族との会話を楽しむ。
ドーム内の住人たちは、各自の個人番号を成人した時に与えられる。仕事用と私用の2つあって、それぞれ番号の組み合わせで外線と内線の2通りに使えるので、結局のところ1人に4通りの番号があるのだ。
ポール・レイン・ドーマーは、私用の外線を滅多に使わない。外に友達がいないせいだが、仕事で彼と話しをしたい人間が多いのも確かで、だから専ら仕事用外線を使う。
私用外線を使ったのは、ダリルに与えた端末が初めてかも知れない。
だから、非通知で私用外線に掛かってきた電話に彼は驚いた。直ぐに「発信元解析」を押すと、見知らぬ番号が出た。市外局番は、ニューシカゴだ。
通話ボタンを押すと、無言だ。荒い、緊張した様な呼吸音が聞こえた。
悪戯にしては遠距離過ぎる、と思った時、若い男の声がした。
「ラムゼイが引っ越すって・・・」
ポールは電話を切った。悪戯か、罠か、それとも・・・?
あの声には聞き覚えがある。それに、この番号を知っている、あるいは知ることが出来る人間は1人しか思いつかない。
彼は確認の為に、掛かってきた番号に返信した。
向こうはためらったのか、少し間を置いて出た。名乗らないが、やはり緊張した呼吸音が微かに聞こえた。
ポールは、相手が誰なのかわかった、と言うことを伝えた。
少年から何か情報を聞き出す手もあったが、恐らくそれはライサンダーを危険な目に遭わす可能性が高いだろうと判断して、短い言葉を伝えて切った。
切ってから、番号を登録し、位置登録もした。これからライサンダーがその端末を持ち歩く限り、少年の位置がわかるはずだ。
ラムゼイが引っ越す。 恐らく、隠れ家を移すのだ。 農家の家宅捜査を急がねばなるまい。
ポールは急にダリルに会いたくなった。深夜だったが、彼の地位ならドームの大方の場所に時間に関係なく入れる。 ポールはダリルが医療区を退院してクローン観察棟に再収容されたことを知っていたので、アパートを出て向かった。
ダリルは、女性執政官と「お仕事中」だった。ドアをノックしてから開けたのだが、執政官に睨まれた。それならそうとノックした時点で断ってくれれば良さそうなものを、とポールは恨めしく思いながら、廊下で待った。
10分ばかりして、執政官が部屋から出て来た。ポールを見て、クスクス笑った。
「いつ現れるかと、みんなで賭けをしていたのよ。」
彼女は、ダリルの子種を採取したカプセルを保温容器に入れていた。
「あなたのものも、採取してみたいわね。」
「俺のは不良品ですよ。」
ポールはぶっきらぼうに言った。
「男しか作れないんでね。」
失礼、と言って、室内に入った。
ダリルはくたびれたのか、横になったまま彼を迎えた。
「夜中に何だ?」
「別に・・・」
ポールはベッドの縁に座って、ダリルを横目で見た。
「いい思いをしているんだろ?」
「まさか・・・」
ダリルは眠くなって目を閉じた。
「本番なんてないんだから・・・空しいだけだよ。」