2016年9月20日火曜日

牛の村 15

 あれきり、息子とは会っていない。ダリルは急に不安に襲われた。この会議は何だろう? 深夜に叩き起こされて、逮捕される迄の経緯を説明させられている。ライサンダーがどうかしたのか? 何故、この会議にポール・レイン・ドーマーはいないのだ?
 再びハイネ局長が語り出した。

「ニューシカゴ近郊の山間に、牛の放牧をしている農家がある。牛はクローン技術で増やして、今は自然交配も出来る様になった。その農家は、パーカーと言う人物の名義なのだが、パーカーは数年前に死亡していることがわかった。
 北米南部班はその農家の内偵をして、多くの人間が出入りしている事実を掴んだ。
さらに、出入りする人物の中には、葉緑体毛髪の少年も含まれていることを、付近の聞き込みで掴んだ。」
「ちょっと待って下さい。」

ダリルは聞き捨てならぬことを耳にして、局長を遮った。

「その緑の髪の少年と言うのは・・・?」

なんで部下たちは自分の話を遮ってばかりいるのかなぁと言いたげに、ハイネ局長は苦虫を潰した様な顔をした。

「レインはその少年を君の息子だと断定した。」
「どうして・・・」

とダリルは呟いた。息子が謎の農家にいる理由を考えたのだが、局長は違う意味に捉えた。

「少年が自らレインの直通電話に掛けてきたそうだ。」
「ライサンダーが?」
「何故彼はレインの番号を知っていたんだ?」

尋ねられてダリルは考えた。何故だ? そしてポールがダリルに送付した端末をライサンダーが壊した時の光景を思い出した。息子は端末を勝手にいじって番号を見たのだ。
そして、記憶した。

「レインが連絡用に送って来た端末で番号を知ったのでしょう。」

親子ねぇとラナ・ゴーンが呟いたが、その言葉の意味がわかったのは極少数だった。

「息子はレインに何の用があって掛けたんです?」
「少年はレインに、『ラムゼイは引っ越す』と告げたそうだ。」
「ああ、成る程、その農家がラムゼイのアジトだったんですね。」

北米北部班のチーフが発言した。この男はそこにいるドーマーたちの中で局長の次に年長で、と言っても48歳だったが、落ち着いていた。

「すると、ベーリングの娘もそこに居るんですね?」
「南部班のルーカスが目視で確認した。娘もそこに居る。但し、子供たちが捕虜なのか使用人になったのか、それは不明だ。」

そこでやっとハイネ局長は本題に入った。

「昨日の早朝、レインは北米南部班第1チームを率いてラムゼイのアジトへ家宅捜査に向かった。子供2人を保護してラムゼイも逮捕出来れば上出来だったはずだが、計算が狂った。」

局長は一拍おいてから、結果を述べた。

「支局にいたスパイに罠を仕掛けられ、レインがラムゼイに捕まった。」