ドームには庭園がある。野山を模した空間に、人間に直接害を与えない動植物が育てられ、出産の為に収容された女性たちのセラピーに利用されている。コロニー人たちは本物の地球の自然を味わえる立場だが、外気が恐いのでこの庭園で我慢して「地球気分」を楽しむ。ドーマーにとっては自宅の庭だ。 クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーはここでキャリー・ジンバリスト・ドーマーとデートを重ねて結婚した。
庭園の外れに水泳用プールが設けられており、女性たちはそこでお産に向けての運動をしたり、産後のリハビリを受けたりした。水中出産用プールは医療区の建物内にあるので、庭園のプールは比較的自由に利用出来た。
特に仕切りはなかったが、スポーツ用のプールも隣にあった。こちらは純粋に競泳用プールで、ドーマーたちの体力創りの為の施設だ。女性が使ってはいけないと言う規則はないので、女性ドーマーが泳いでいる時もあるし、産後の女性が友人同士で競泳を試みている姿も見られた。
ダリル・セイヤーズ・ドーマーは、2週間寝込んで体力が落ち、見た目にも貧弱な体になったので歩けるようになるとプールに通うことにした。覚醒して3日目だった。医師は心配したが、彼は平気だと言う自信があった。それで保安要員を監視役に付けて、プール使用を許可された。
医師は、中央研究所にそっと所見を送信した。
「進化型1級遺伝子保有者の快復力は驚異的である。」
ダリルは1000メートル泳いで休憩した。流石に息が切れた。プールサイドのビーチチェアに座って隣の女性たちの水着姿を眺めた。なかなか良い眺めだ、と思って、何気に監視役を見ると、彼も同じ方角を見ていた。男の興味は同じだなぁと思っていると、ダリルよりずっと若いのに女性には目もくれないで2人に向かってまっすぐやって来る男が目に入った。 監視役もその男に気が付いた。監視役は背筋を伸ばした。ダリルは彼が何を警戒しているのだろう? と疑問に思ったが、若者の顔には見覚えがなかったので、また視線を女性たちの方へ戻した。 アフリカ系の綺麗な女性がいて、出産後と思われた。ダリルが彼女に目を留めたのは、彼女が水中ではしゃぐ女性たちの仲間に加わらず、プールサイドでぼんやり座っていたからだ。なんだか哀しそうだな、と思った。
若者がダリルの近くで立ち止まった。監視役が止まれと合図しなかったら、ダリルの面前まで来たはずだ。
「僕は、アレクサンドル・キエフ・ドーマーだ。セイヤーズに話がある。」
保安要員は、ドーマーたちの名前と顔のリストを所持しているし、ほぼ空で暗記している。キエフが管理局員で、衛星情報解析係だと言うことも知っていたが、別の理由でもその名を知っていた。
「セイヤーズは病人だ。話をするなら医師の許可を取れ。」
本当は、そんな規則などない。ダリルが再び無茶をしないように監視役が付いているだけだ。監視役は、キエフがポール・レイン・ドーマーのストーカーとして悪名高いことを知っていた。今一番ダリルに近づけたくない人物だ。アナトリー・ギルの時は、ギルが武芸に縁遠い執政官だったから、簡単にダリルに返り討ちにされた。しかし、キエフは事務系とは言え、戦闘訓練を受けた管理局員だ。ここで暴力を振るわれたら、銃使用を余儀なくされるかも知れない。
それは、一般人の女性たちの前でしてはならないことだ。
監視役が困っていることを、ダリルは察した。何だか知らないが、相手は怒っている様だ。 実のところ、ダリルの記憶は、ハイネ局長が「ドーマーのハッキング記念日」と冷やかして命名した日から脳神経科の手術室を出て2日目までが綺麗に飛んでいて、彼はギルをぶん殴ったことも忘れており、ポールのファンたちとのいざこざをあまり問題視していなかった。
庭園の外れに水泳用プールが設けられており、女性たちはそこでお産に向けての運動をしたり、産後のリハビリを受けたりした。水中出産用プールは医療区の建物内にあるので、庭園のプールは比較的自由に利用出来た。
特に仕切りはなかったが、スポーツ用のプールも隣にあった。こちらは純粋に競泳用プールで、ドーマーたちの体力創りの為の施設だ。女性が使ってはいけないと言う規則はないので、女性ドーマーが泳いでいる時もあるし、産後の女性が友人同士で競泳を試みている姿も見られた。
ダリル・セイヤーズ・ドーマーは、2週間寝込んで体力が落ち、見た目にも貧弱な体になったので歩けるようになるとプールに通うことにした。覚醒して3日目だった。医師は心配したが、彼は平気だと言う自信があった。それで保安要員を監視役に付けて、プール使用を許可された。
医師は、中央研究所にそっと所見を送信した。
「進化型1級遺伝子保有者の快復力は驚異的である。」
ダリルは1000メートル泳いで休憩した。流石に息が切れた。プールサイドのビーチチェアに座って隣の女性たちの水着姿を眺めた。なかなか良い眺めだ、と思って、何気に監視役を見ると、彼も同じ方角を見ていた。男の興味は同じだなぁと思っていると、ダリルよりずっと若いのに女性には目もくれないで2人に向かってまっすぐやって来る男が目に入った。 監視役もその男に気が付いた。監視役は背筋を伸ばした。ダリルは彼が何を警戒しているのだろう? と疑問に思ったが、若者の顔には見覚えがなかったので、また視線を女性たちの方へ戻した。 アフリカ系の綺麗な女性がいて、出産後と思われた。ダリルが彼女に目を留めたのは、彼女が水中ではしゃぐ女性たちの仲間に加わらず、プールサイドでぼんやり座っていたからだ。なんだか哀しそうだな、と思った。
若者がダリルの近くで立ち止まった。監視役が止まれと合図しなかったら、ダリルの面前まで来たはずだ。
「僕は、アレクサンドル・キエフ・ドーマーだ。セイヤーズに話がある。」
保安要員は、ドーマーたちの名前と顔のリストを所持しているし、ほぼ空で暗記している。キエフが管理局員で、衛星情報解析係だと言うことも知っていたが、別の理由でもその名を知っていた。
「セイヤーズは病人だ。話をするなら医師の許可を取れ。」
本当は、そんな規則などない。ダリルが再び無茶をしないように監視役が付いているだけだ。監視役は、キエフがポール・レイン・ドーマーのストーカーとして悪名高いことを知っていた。今一番ダリルに近づけたくない人物だ。アナトリー・ギルの時は、ギルが武芸に縁遠い執政官だったから、簡単にダリルに返り討ちにされた。しかし、キエフは事務系とは言え、戦闘訓練を受けた管理局員だ。ここで暴力を振るわれたら、銃使用を余儀なくされるかも知れない。
それは、一般人の女性たちの前でしてはならないことだ。
監視役が困っていることを、ダリルは察した。何だか知らないが、相手は怒っている様だ。 実のところ、ダリルの記憶は、ハイネ局長が「ドーマーのハッキング記念日」と冷やかして命名した日から脳神経科の手術室を出て2日目までが綺麗に飛んでいて、彼はギルをぶん殴ったことも忘れており、ポールのファンたちとのいざこざをあまり問題視していなかった。