2016年9月11日日曜日

JJのメッセージ 5

 ポール・レイン・ドーマーは動ける様になると直ぐに第3チームを率いてライサンダーの捜索に出た。そして空振りに終わって帰投すると、4日後には第4チームを率いて再び出かけた。
 ハイネ局長が、副官のクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーと交代で出るようにと忠告を与えたが、耳を貸さなかった。まるで何かに憑かれたたかの様に、彼は山から川、川の下流・流域を走り回った。どうしてもライサンダーの生死を確認しないとダリルに会わせる顔がない。もし、ライサンダーが生きていなかったら? ダリルは彼の元に還って来るだろうか? また独占出来るだろうか? 
 ポールには自信がなかった。あの夜のダリルの全身全霊を込めた拒絶が、彼の心を傷つけていた。18年間独りぼっちにされた後のあの拒絶。 
 
 ダリルはもう俺だけのものでなくなってしまった

 捜索が巧くいかないのには、別の理由もあった。衛星情報解析係の部下、アレクサンドル・キエフ・ドーマーが絶不調なのだ。ポールのストーカーとして悪名高いこの若い部下は、ポールが元恋人を取り戻したと先輩に聞かされて以来、言動がおかしくなった。
仕事では実に優秀な男なのでポールは使っているのだが、出来るだけ接触は避けている。
それがキエフを苛立たせる。キエフの苛立ちは、他の部下にも悪影響を与えた。誰もがチーフ・レインの不機嫌を恐れるし、キエフと同席するのを嫌がるし、でチーム内に不協和音が出来ていた。
 副官ワグナーは流石にこの事態を憂慮し、ハイネ局長にこっそりと注進した。

「チーフ・レインが精神的に不安定になっています。局長命令で休ませて下さい。」

 ハイネ局長は、ポールに忠告ではなく、命令を与えようとしたが、ポールはそれより早く第5チームと出動してしまった。 局長はじっくり考えてから、副長官に相談をもちかけた。

 ライサンダーとJJが行方不明になってから2週間たとうとしていた。
 ポール・レイン・ドーマーと第5チームは空振りで帰投した。 ただ今回は1つだけ収穫があった。葉緑体毛髪を持つ少年が30代半ばの男と2人でニューシカゴ近くの街で買い物をしていたと言う目撃情報があったのだ。ポールは目撃者と面会し、少年の人相を尋ねた。ライサンダーの写真がないので確証はないのだが、本人と思われた。
同伴していた男の人相もついでに尋ねて記録しておいた。 第5チームのチームリーダーが、その男の人相を聞いて、ちょっと心配した。

「ラムゼイの腹心と言われている秘書のパーカーに似ていますよ。」

ライサンダーはラムゼイに拾われたのか? ポールは考えた。 ライサンダーがラムゼイに創られたクローンだと言う予想はついていた。同性の染色体だけで子供を創る高等技術を持つメーカーなど、他にはいない。 ラムゼイは自分の作品を取り戻しただけなのだ。