2016年9月21日水曜日

牛の村 17

 クロエル・ドーマーが陽気に「はいっ」と手を揚げた。

「僕がセイヤーズのサポートをします。北米2班と違って、僕はこっちのメーカーには知られてませんからね、近づいても怪しまれませんよ。」
「それに、誰もそんなおちゃらけたヤツが管理局にいるなんて思わないだろうしな。」

と南米班。
 ダリルはクロエルを眺めた。確かに、中西部でドレッドの男は珍しい。たまに長距離トラックの運転手で見かけるくらいだ。クロエルは態度こそ不真面目に見えるが、抑えるべきポイントで質問を入れ、意見を述べている。中米は地峡とカリブ海諸島の複雑な地域だ。支局は形ばかりで、局員たちはほとんど独力で担当地域を飛び回って仕事をしている。「馬鹿」では絶対に務まらない地域だ。
 ダリルは局長を見た。

「彼にサポートをお願いしたいと思います。」
「君がそれで良いのであれば・・・」

 ハイネ局長はケンウッド長官を見た。ダリルは外に出せないドーマーのはずだ。出すには長官許可が要る。
 ケンウッド長官は、ラナ・ゴーン副長官を見た。私はセイヤーズを信じるが君は? と目で問うたのだ。ラナ・ゴーンが頷いた。
 長官は「許可する」と宣言した。

「ワグナーがまだ現地にいる。彼は『通過者』だ。彼も使え。」
「では、これから局に戻って作戦を練ります。セイヤーズを連れて行きますが、宜しいですね。」

 長官と副長官の了承を得て、ドーマーたちは会議室を出て、中央研究所から遺伝子管理局へ向かった。歩きながら、ダリルは何となく違和感を覚えた。各班のチーフたちは、彼の後ろでこそこそ喋っているし、局長は何かに気を取られていて、ダリルが声を掛ける迄端末を眺めていた。

「もしかして、最初から私がレイン救出に行くと手を揚げるのを期待していたのではありませんか?」

 ハイネ局長が画面から顔を上げて振り向いた。ダリルは相手を怒らせる可能性を承知で考えを述べた。

「さっきの会議は芝居がかって見えました。」

すると、クロエル・ドーマーが後ろから話しかけて来た。

「レイン救出は、僕が行くと決まっていたんですよ、セイヤーズ・ドーマー。」

彼は真っ白な歯を見せて笑って見せた。

「でもリオグランデから北は不案内で、サポートが必要だったんです。それで、ジモティの貴方に参加してもらえないかと、僕から局長に頼んだのです。伝説の『ポールの恋人』と一緒に仕事もしたかったしね。 貴方を外に出すには、長官許可が必要なので、さっきの茶番劇をやった訳です。 ご協力、有り難うございました。」