2020年7月10日金曜日

蛇行する川 1   −6

 グリーンスネイク川は黄色い大地を削って流れている。だがここは完全な砂漠地帯ではない。上流部分は針葉樹の森林地帯で、それが徐々に低木の茂みになり、草原になって砂漠の様な様相になる。しかしグランドキャニオンの様な深い峡谷ではなく、雨がダートの道を削ってできる大きな溝みたいな感じだ。ただ両側の崖が切り立っているので降りるのは難しい。上流からボートで下るのがこの川の交通で、陸路はそれほど険しくない。クリアクリークの街はこの川の下流にある街で、車で10分の距離にローカッスルの船着場があった。
 川を空から見ると、遥か左手でボートが今まさに桟橋に着こうとしているところだった。
客が無事に岸に到着したらしいとヴァンスが肩の力を抜いた。
 パイロットが声をかける前から川はずっと見えていたのだが、彼が言いたかったのは牛の舌ポイントのことだった。ハイデッカーが高度を下げて崖の間に入る様指示した。気流は安定しており、静音ヘリは問題なく指示通りに高度を下げた。
 水の流れは速かった。黄色く濁った泥水が流れている。波がそんなにないのは岩が川底に出ていないからだろう。それでも下流に白く波立っている箇所が見えていたので、水流の速度が決して穏やかなものでないことは容易に想像出来た。普段はあまり急流でないから今日の川下りは面白かっただろう、とシマロンはぼんやりと思った。
 ハイデッカーがリモート操作でカメラを動かした。シマロンは座席越しに後ろからモニター画面を覗き込んだ。湾曲した内側の牛の舌の上流部分の岸辺が、3日前の雨による増水で削られているのがわかった。岩ではなく土の壁が見えている。草木の根が剥き出している、その中に人体が見えた。人形ではないだろう。ダランと腕が水面に向かって垂れている。頭部はまだ土中にあるらしいが、胴体は一部見えていた。

「流されて来たんじゃない、埋められていたんだ。」

 シマロンは思わず呟いた。ヴァンスは黙ってモニター画面を見ているだけだ。顔から表情が消えていた。
 ハイデッカーが振り返った。

「流されてきた死体に泥が被ったのではないのか?」

 シマロンは遺伝子管理局のエリートに教えてやった。

「流されてきた死体に泥が被ったのであれば、あんなに深く埋まったりしない。あの土は樹木の根を見ればわかるがもう何十年もそこにあるんだ。あの死体は埋められているんだ。」

 シマロンは端末を出して、郡警察本部へ電話をかけた。
 死体発見の報告と鑑識と死体回収の応援を要請した。死体の映像はハイデッカーが送信してくれた。彼は死体を自分達のヘリで回収せずに済みそうなので心なしか嬉しそうだ。パイロットも少し愛想が良くなった。マーカーの旗を牛の舌の川から離れた箇所に4個ばかり投下して、静音ヘリは一旦クリアクリークに引き揚げた。