2020年7月28日火曜日

蛇行する川 4   −9

 食事が終わってレストランを出ると、ロビーでハーローと車椅子に乗った父親が待っていた。博士達に連れを紹介してから、シマロンは彼等が手ぶらだったので驚いた。ハーローが笑った。

「買い物は全部宅配便で送ってもらえるんですよ、トニー。」

 プライベイトな時間なので保安官とは呼ばずに名前で呼んでくれる。シマロンは父親を見た。ケチな父親は何を買ったのだろう。

「親父は何か良い物でも買ったのかい?」

 すると父親は無愛想に答えた。

「先の短い自分の物を買っても無駄遣いだ。」
「全部トニーの物ばかり。」

とハーローが囁いた。ケンウッド博士が微笑んだ。

「素敵なお父様だ。」

 父親が博士を見上げた。

「こんな老いぼれまで招待していただいて、有り難うございました。良い思い出になります。」
「トニーも貴方と旅が出来て喜んでいますよ。」

 博士が車椅子の前に屈んだので、彼は手を差し出し、2人は握手した。

「厚かましいお願いだとわかっていますが・・・」

と父親が切り出したので、シマロンは不安になった。

「親父、これ以上博士に甘えられないぞ。」
「だが、これだけは言っておきたい。」

 ケンウッド博士が優しい目でシマロンの父親を見つめた。何を要求されるかわかるような気がした。父親が言った。

「息子とそこにいるマイケルが妻帯許可申請を出したら、受理してやって下さい。」
「親父!」

 シマロンの狼狽を無視してケンウッド博士が頷いた。

「大丈夫です、トニーもマイケルも十分資格がありますよ。それに恋愛は自由です。女性の同意があれば無条件でパスします。」

 父親が苦笑した。

「俺は恋人もいないのに申請を出してしまったからなぁ。」

 そして囁いた。

「だけどお陰で自慢の息子を持てました。」

 博士が小声で「お許しを」と囁き、父親をハグした。
 ハーローがサルバトーレに話しかけた。

「君は彼女、いないの?」
「俺か?」

 サルバトーレが不意打ちを食らった表情で言い訳した。

「俺はまだ・・・今は唐変木の友人と彼の慎ましやかな彼女が早く結婚できるように根回しするので忙しいんだ。」

 横でヤマザキ博士が可笑しそうに笑っていた。