2020年7月20日月曜日

蛇行する川 3   −3

 シマロンはケンウッド博士のプライバシーを無闇に口外したくなかった。打ち明けた時の博士の子供の様な恥じらった顔が可愛らしく思えたのだ。だからヴァンスの問いにはこう答えた。

「お守りさ。博士が10年以上も持っている小さな小物だ。それを昨日の朝、森でミントを摘む時にポケットから落っことした。夜になって失くしたことに気づき、明け方1人で出かけたものだから、ボディーガードが泡食って俺に連絡を寄越したのさ。」
「無事に見つけた訳だな。」
「うん。友達の子供にもらった玩具だそうだ。だがあの人には宝物なんだ。」
「彼は何でも丁寧に扱っていたから、玩具でも大事にしているんだろう。」

 ケンウッド博士はヴァンスにも評判が良かった。シマロンは冗談混じりに彼に尋ねた。

「君のところでコロニー人は働いていないだろうな? 」
「全員地元の人間だ。地球人だよ。」
「最近雇い入れたヤツはいないか?」
「2、3人いるが、地元の若いヤツだ。何だよ?」
「ケンウッド博士が、最近森の中を歩いた人間の中にコロニー人がいたと言ったんだ。」
「そりゃ、博士とあの若いお姉ちゃんが歩いただろう。2人ともコロニー人だ。」
「いや、他にもいた。」
「何故そう言い切れる?」
「遺留品があってな・・・博士が地球人には必要のない物でコロニー人には重要な物だと教えてくれたんだ。」
「それが最近の物なのか?」
「うん。」

 どうだか、と疑いの目でヴァンスがシマロンを見た。

「博士の宝物だとか、遺留品だとか、物の正体をはっきり言わないんだな。」
「すまん、仕事柄、詳細は言わないんだ。」

 ヴァンスの目が光った。

「すると、あの川で見つかった死体は、やっぱり犯罪の被害者なのか?」

 シマロンは頷いた。

「まだ口外しないでくれ。郡警察本部がまだ公に発表していない。俺がフライングするわけに行かないんだ。それにもし犯罪なら、犯人が遺留品を残したことを知って逃げる恐れもある。君の安全にも関わってくる。」
「私の身を案じてくれて有り難う。だがはっきり言ってくれないのは、気持ちが悪いなぁ。」
「君だって俺にビジネスの詳細は教えないだろう。」
「警察の仕事に関係ないからさ。」
「関係してくれば教えるか?」

 ヴァンスがグッと見つめ返した。

「客の個人情報は教えられない。」
「令状を取れば見せるか?」

 彼は肩の力をふっと抜いた。

「止めようぜ、トニー。お互い、仕事に忠実ってことだ。私もコロニー人の博士にこだわるのは止める。」

 そして作り笑いをして見せた。

「ドームがお得意さんになってくれたら、客が増えると期待したんだがな・・・」