2020年7月26日日曜日

蛇行する川 4   −5

 1週間後、シマロンは東部のドーム空港ビルにあるレストランに居た。目一杯上等の服を着て来たが、洗練された都会のレストランに自身は場違いの様な気がして落ち着かなかった。大きな窓の向こうでは、宇宙から来たシャトルや地上を飛び回る航空機がいて、整備や搭乗の時間を待っていた。その中には、シマロンがタンブルウィード空港から乗って来た旅客機もいるのだ。

「ヤァ、待たせたね!」

 柔らかな声がして、彼はハッと振り返った。慌てて立ち上がると、ケンウッド博士がすぐ近く迄来ていた。博士の後ろには、長身で白髪のスリムな男性と博士より背が低いが体格の良い東洋系の男性、そして最後にボディガードのサルバトーレがいた。博士もサルバトーレを含めた他の男性達も上等だがカジュアルな服装だった。シマロンは自分に合わせてくれたのだろうか、と内心穏やかでなかった。
 ケンウッド博士が目の前に立ったので、シマロンは「地球人保護法」を思い出して手を差し出した。

「お招き有り難うございます。俺だけじゃなく、ハーローと俺の親父まで・・・」

 今回の「お上りさん」旅行の費用は、なんとケンウッド博士がシマロンのみならずハーローとシマロンの父親の分まで出してくれたのだ。父親は介護施設からロボット介護士付きで出かけて来た。
 博士がシマロンの手をしっかり握った。

「来てくれて嬉しいよ。マイケルとお父さんは何処だね?」
「2人はシティへ観光に行ってます。ご挨拶だけでも、と言ったんですがね・・・大都会が珍しくてはしゃいでしまって、俺の言うことなんか聞きやしません。」

 ハッハッハッと博士が笑った。そして彼は連れを振り返った。

「こちらが、クリアクリークで私が世話になった保安官アンソニー・シマロンさんだ。」
「トニーで良いです。」

 シマロンが慌てて口を挟むと、博士は頷いて、彼に連れを紹介した。

「トニー、この東洋系の男はドームの医療区長ヤマザキ・ケンタロウ博士だ。私の親友で主治医でもある。」
「よろしく、ヤマザキ博士。貴方のお薬の解説で今回の犯人の目星がつきました。」
「そうかな? 君達保安官事務所の2人が優秀だったからだろう?」

 東洋系は若く見えるのか、ケンウッド博士より少し年下に見えたが、ヤマザキ博士は医者らしい何処か患者を威圧する様な目をしていた。サルバトーレが「偉いお医者」と言ったのは本当なのだろう。
 ケンウッド博士は白髪の男性を振り返った。この男性は年齢がよくわからなかった。顔の半分がマスクで隠れており、青みがかかった薄い灰色の目は鋭い光を放っていた。40代の様で、もっと年輩の様にも見えた。

「遺伝子管理局長のローガン・ハイネだ。この男もヤマザキと私の親友だ。」

とケンウッド博士が紹介すると、ハイネの方からシマロンに手を差し出して来た。この男は地球人なのだ。シマロンがベルナルド・サンダースの正体を教えてもらった礼を言おうとすると、彼は時間がないのでこれでお暇します、とケンウッド博士とヤマザキ博士に断った。ヤマザキ博士が、

「まだ大丈夫な筈だぞ。」

と言ったが、彼は「私は臆病ですから」と答えた。シマロンにとって意味不明の遣り取りだったが、去り際、ハイネはシマロンと視線を合わせた。その鋭い目は何故かシマロンに「余計なことを喋るな」と言った様な印象を与えた。
 ケンウッドが着席を提案したので、残った4人は椅子に座った。すぐにウェイターがやって来て、料理の注文を取った。

「この店の料理は本当に美味いんだ。」

とケンウッド博士が言うと、ヤマザキ博士もサルバトーレも同意した。

「きっと君も気に入るよ。」

 そしてドームの人々はシマロンの方に身を乗り出す様にして催促した。

「さて、事件の顛末を語ってくれ給え、トニー。」