普段クリアクリークの保安官事務所は夜勤を置かない。留置場に誰かが入っていれば泊まり込みで番をするが、檻の中が空っぽなら保安官も保安官助手も泊まらない。保安官事務所に誰もいない日に何かあれば、住民は直接保安官の端末に電話を掛けてくる。
シマロンの夜勤は午後11時迄だった。彼は事務所の照明を落とし、戸口を戸締りして車に向かった。暖かい日中と違って晴れた夜は冷える。夜空は星がいっぱいだ。
シマロンの夜勤は午後11時迄だった。彼は事務所の照明を落とし、戸口を戸締りして車に向かった。暖かい日中と違って晴れた夜は冷える。夜空は星がいっぱいだ。
車庫の前に行くと、一台の車がゆっくりと通りかかった。窓を開けていて、運転席の男が声を掛けてきた。
「上がったのかい、保安官。」
誰だったかな、と思いつつ、シマロンはああと答えた。あまり聞き覚えのない声だが、訛りは地元の物だ。
「あんたも仕事帰りかい?」
尋ねると、相手は車を停めた。
「船を川下から上げるのに時間がかかってね。何しろ昨日は3隻一度に出しただろ? おまけに嫌な積荷を乗せてくれて・・・」
シマロンは話し相手が誰なのかやっとわかった。ホテル・モッキングバードのそばの船着場ハイカッスルの管理人ウィリアム・ハースだ。川下りのボートは当然ながら普段はハイカッスルの桟橋に係留されている。船頭のアンディ・ウィルソンは客の人数に合わせてバイトの船頭を呼び出し、船を出す。ハースは受付小屋で料金を徴収したり、ボートに装備する救命道具の点検が仕事だ。そして川を下ったボートをトラックで川上に戻すのもハースの仕事だ。3隻一度に運べないので1隻ずつ順番に3往復してボートを回収した訳だ。
「ボートで川上まで戻って来られないのか?」
「客が乗りたいと言えばそうするが、俺1人じゃ、時間の無駄じゃないか。燃料代だって馬鹿にならんぜ。」
それにボートで戻れば川下のローカッスルの船着場にハースのトラックを置いて来ることになる。シマロンは自分の考えが馬鹿げていたことに気づいて、暗がりの中で苦笑した。
「ボートも洗ったんだろうな。」
「当たり前だ。昨日、警察が引き上げてから、サンダースとウィルソンとバイト達とで大掃除した。泥だらけのまま、客を乗せる訳にいかんから。」
ハースは窓から指を突き出した。
「ちゃんと請求するからな。」
「請求書は郡警察に送ってくれ。保安官事務所経由だと支払い迄時間がかかる。」
「そうするよ。それじゃ、おやすみ!」
「おやすみ。」
ハースの車がまたノロノロと動き出し、1ブロック先の角を曲がって行く前にシマロンは自身の車に乗り込んでいた。
エンジンを掛けてから、ふと思った。
薬のゴミを捨てた人間は、川下から来た可能性もあるんじゃないか?
昨日の午後の水流は勢いを落とし、下るのにモーターを稼働させないとスピードが出せない始末だった。川下から上って来るのは容易だったろう。
だが、誰が何時川を上ったんだ? ローカッスルにはハースもサンダースも居た。夜の川は危険だし、早朝は・・・
サンダースは今朝川でエンジン音を聞かなかっただろうか? 彼は何処に住んでいる? 川のそばか? それとも自宅は離れているのか?
シマロンは朝になればローカッスルに行ってみようと思った。