2020年7月16日木曜日

蛇行する川 2   −1

 遺体回収をした次の日、この季節はいつも同じ晴れた気持ちの良い朝だった。シマロンは定刻より少し遅い起床だったが、誰も文句は言わなかったし、朝食を取りに行った居酒屋「びっくりラビット」でいつものサンドイッチのパックを受け取って保安官事務所に出勤した。マイケル・ハーローはまだ出てきていなかった。遅くまで飲んで騒いだのだろう。入り口の鍵を開けると卓上電話が鳴っていた。端末ではなく卓上電話に掛けてくるのは、ロクでもない用事だ。シマロンは折角の朝の爽やかな気分がひっくり返されないよう祈りながら電話に出た。

「クリアクリーク保安官事務所・・・」
「サルバトーレです。」

 聞き覚えのある声が名乗った。 サンダーハウスから来ていたハンサムなアメリカ先住民のボディガードだ。

「おはよう、サルバトーレさん。」
「おはようございます。そちらにうちのケンウッド博士がお邪魔していませんか?」
「ケンウッド博士が?」

 シマロンは思わず窓の外を見た。ちょうどハーローのピックアップトラックが駐車場に入って来るところだった。

「来ていないが・・・」
「そうですか。恐らくそちらに向かっていると思います。もし見かけたら足止めして下さい。あの方に勝手に出歩かれては困るので・・・」

 シマロンは戸惑った。

「それは構わないが・・・どうしていなくなったんだ?」
「昨夜遅くに博士が森で落し物をしたらしいと言い出しまして、僕が日が変わったら探しに行きますと言ったのですが、どうも落ち着かない様子で、ご自分で朝早くにサンダーハウスを出て行かれたのです。」

 あのコロニー人は車の運転が出来たのか? 確か昨日はセッパー博士が運転する車で帰った筈だが・・・。

「博士は車で出かけたのか?」
「そうです。運転はお上手なのですが、寄り道がお好きな人で、落し物も本当にそうなのか・・・」

 ボディガードは困惑しているのだ。ドーム長官が1人で勝手にお出かけしたので護衛としては責任問題が大き過ぎる。シマロンはサルバトーレに同情した。

「わかった。ちょっと道を反対方向から走って迎えに行ってみる。捕まえたら連絡するよ。この番号で良いのかな?」
「はい、これが僕の個人番号です。お願いします。僕もこれから出ますから。」

 電話を終えたシマロンは、これでまた退屈しなくて済みそうだ、と思った。