2020年7月7日火曜日

蛇行する川 1   −3

 クリアクリークで唯一人の医師アラン・レオーは車を運転する時点で既にライフジャケットを身につけていた。きっと荷台に長靴を積んでいるのだろう。乗っている車は古いオフロード車で、それでどんな山奥にも往診に行く。
 ほとんど魚を入れるクーラーボックスにしか見えない往診カバンを助手席に置いたまま、レオーは運転席から出て来た。

「誰が川で溺れたんだね?」

 シマロンは肩をすくめて見せた。

「まだ溺れたのか落っこちたのか、沈められたのか、わからないんだよ、先生。」
「死人はここにはいないのか?」
「まだ川だ。だから貴方もそんな格好で来たんだろう?」
「それに、誰が亡くなっているのかもわからんのだよ、先生。」

 ヴァンスの声にレオーは振り返った。

「それじゃ、君たちはまだ死者を見ていないのか。」
「幸いなことにね。」

 レオーは用心深く保安官事務所内を覗き込んだ。

「遺伝子管理局はまだ来ていないのか?」
「まだだよ。どんなにジェットヘリを飛ばしてもすぐには無理さ。」

 するとハーローがああと声を上げたので、シマロンは彼を見た。なんだ?と訊くと、秘書兼助手は言った。

「遺伝子管理局のヘリで遺体を引き上げてもらえるんじゃないですか?」

 シマロンとヴァンスとレオーは互いの顔を見合った。ハーローの提案は素敵だったが、欠陥があった。
 ヴァンスが言った。

「マイケル、ハイデッカー先生は物凄い潔癖症で有名なんだぞ。忘れたのか?」