2020年7月24日金曜日

蛇行する川 3   −6

 ベルナルド・サンダースはクリアクリークの生まれではなかった。2年3ヶ月前に東部から引っ越して来た「よそ者」だ。勿論、狭い町だから、その程度の情報はシマロンもデータを調べなくても持っていた。生まれはニューヨーク州となっている。父親は既に死去しており、兄弟はいない。この男も養子だ。
 よそ者が観光業に携わるのはよくあることだ。だが川の性質を熟知しなければならない船着場の管理人など務まるのだろうか。川上の桟橋の管理人ウィリアム・ハースは地元っ子でグリーンスネイク川の性質を熟知している。だから川上から乗る観光客の世話を任されているのだ。それは船頭のアンディ・ウィルソンも同様だ。しかしサンダースの仕事は主に川を下ってくるボートの出迎えと駐車場に置かれた観光客の車の見張りだ。観光客が川下りの申し込みを行うのはレストハウスだが、レストハウスの経営は別の人間がしているのでサンダースは無関係。川下りを受け付けるか断るか、それは川の流れ次第だ。それを見極めるのはレストハウスの経営者のジョー・タルボットの仕事である。だから、よそ者ではあるが、サンダースは川下り関係の仕事にありつけた訳だ。
 シマロンがサンダースの人物像を探っていると、カリ警部補から電話が掛かって来た。シマロンは彼女に電話を掛けていたことを忘れていたので、もう少しでトンチンカンな受け答えをしてしまうところだった。

「デレク・デンプシーの件ですが・・・」

 まだ殺人事件と断定する公的発表がないので、慎重に言葉を選んでシマロンは警部補に尋ねた。

「貴女と2人きりで話せる環境はありませんか? テレトークで構わないのですが・・・」

 出来るだけフォイルには聞かれたくなかった。手柄を上げたい気持ちもあるが、手柄を横取りされたくない気持ちの方が強い。
 カリが苦笑した。

「ここは私のオフィスよ。部下は今ここにいないわ。」
「では・・・」

 シマロンは簡潔にケンウッド博士が森で見つけたゴミの話をした。カリ警部補は額にシワを寄せた。

「新しいと思われる薬の包装が落ちていたのに、クリアクリークには最近コロニー人が来た形跡はないのね、その遺体の発見者のケンウッド博士とあの若い女性博士以外は?」
「そうです。死んでいたデンプシーが賞金稼ぎだったことを考えると、彼は標的の人物を見つけ、返り討ちにあった可能性があります。」
「地球人になりすましたコロニー人がいると言うこと?」
「多分・・・地球人とトラブって殺害された可能性もありますが、薬のPTPが落ちていたことがまた別の謎になります。」

 カリ警部補は頭を掻いた。

「デンプシーが誰を探していたのか、宇宙から情報を得る必要があるかも知れないわね。それは・・・」

 彼女は非常に悩ましげな表情になった。

「連邦捜査局の仕事になるわ。」
「地球が普通に宇宙と付き合っていたら・・・」
「普通に付き合っていても、国際問題だから連邦の管轄には違いないわ。」

 シマロンはカリ警部補が溜め息をつくのを眺めた。彼女は外部の捜査機関に邪魔されたくないのだ。仕事を全部丸投げしても良いのだが、泥だらけになって遺体回収した苦労を思うと、他人に仕事も手柄も与えてしまうのはちょっと悔しい。それはシマロンも同感だった。

「兎に角、デンプシーが誰を追っていたのか、それを連邦捜査局に問い合わせてみる。向こうが乗り出して来たとしても、犯人を追うのは地元の協力なしでは無理でしょう。」
「背広着てネクタイ締めた革靴野郎達に手柄を取られるのは好きじゃないです。」
「連中も宇宙から憲兵隊が降りてきたら、そう感じるわよ。」

 カリ警部補は笑って、通話を終えた。
 シマロンが椅子の背もたれに体重を預けて一息つくと、ハーローがコーヒーを持ってきた。

「クリアクリークにコロニー人のなりすましがいるって考えてるんですか、保安官?」
「考えたくないがな。しかし、この5年ばかりで、よそから来てここに住み着いた人間の過去を洗い出す必要はあるかもな。」

 シマロンは宇宙の指名手配犯のリストを思い出した。膨大な資料だったが古いものは100年も前のものだ。最近の手配に絞って、顔を整形した可能性も考えて住民の顔を照合しなければならない。