2020年7月25日土曜日

蛇行する川 3   −10

 ホテルのカフェで簡単なランチを済ませてシマロンは事務所に戻った。前庭で昼寝でもしようかと思った時、電話が掛かってきた。発信者を見るとロバート・フォイル刑事だったので、うんざりした。出ない訳にも行かないので通話ボタンを押した。

「シマロン」
「フォイルだ。あんた、あっちこっちの薬局に問い合わせメールを出していたんだってな?」

 フォイルも薬局に問い合わせしたのだろう。シマロンの方が一足早かったのだ。

「うん、したよ。」
「収穫はあったか?」

 自分では働かずに他人の収穫を横取りするつもりだ。隠してもどうせ後で知れるだろうと思ったので、シマロンはローズタウンやニューシカゴからの情報を教えた。しかしタンブルウィードへの薬剤回送の件は黙っていた。シマロンがわざわざ教えなくても、薬局が言うだろう。
 どの薬局も顧客情報の守秘義務でデレク・デンプシーに何も教えなかったと言う回答は、フォイルを喜ばせることにならなかった。

「殺人犯がコロニー人だと言うのは、あくまでも推理の一つだからな。」

と刑事は言った。

「地元民の地球人の可能性だってあるんだ。ゴミにこだわらずに幅広く捜査しなよ。」

 そう言って、刑事は通話を切った。
 シマロンは端末を投げ出したい気分だったが、壊れると困るので机の上に置いた。
 そして昼寝をする為にデッキチェアを前庭に出した。日陰に置いて上に体を横たえたところで、事務所内で電話が鳴った。端末を机の上に置いて来てしまった。シマロンは舌打ちして、デッキチェアから降りると事務所内に駆け込んだ。
 電話の発信者は番号を通知して来ていたが、名前は表示されていなかった。見たことがない局番だ。東部か? シマロンはまだ鳴り続けている端末を手に取った。

「クリアクリーク保安官事務所。」

 名乗ると、良く透る男性の声が彼の名を呼んだ。

「アンソニー・シマロンさんですか?」
「そうです。」
「私は遺伝子管理局長ローガン・ハイネと申します。」

 ピンと来なかった。もしこれがハイデッカーからの電話なら、今回の遺体遺棄事件と関連があるのかと思ったのだろうが、遺伝子管理局長などと付き合いがないので、何の用事だろうかと思っただけだった。
 相手はこう言った。

「ケンウッド長官が貴方のお世話になりましたそうで、先ずはお礼を申し上げます。」
「はぁ・・・」
「それから、長官とその連れが何か厄介な物を発見して貴方方のお仕事を増やしているとお聞きしました。」
「あ・・・いや、それは・・・」

 シマロンは戸惑った。遺伝子管理局長の声はとても聞き取り易く耳に心地よい声音だった。若い人の様に思えるが、ハイデッカーより年上なのだろうか?
 画面に顔を出さないその人は、次の言葉でシマロンを驚かせた。

「貴方が今回発見された物の件にどの程度関わっていらっしゃるか当方は関知致しませんが、長官がお世話になった上にご迷惑をおかけしたと気にしておりますので、少しだけお力添えを致します。デレク・デンプシーと言う名のコロニー人が地球へ探しに来た人物の名は、ベルナルド・ザッカレイ、宇宙における犯罪組織の構成員の1人です。裁判で証言台に立つ予定だったが、組織の報復を恐れて逃亡したそうです。捕まって宇宙に連れ戻されるとまた報復される恐れがあるので、バウンティハンターを殺害して隠れ通そうとしているのでしょう。凶悪犯ではなかったのでデンプシーは油断したのだと思われます。貴方も十分気をつけてください。
では、失礼致します。」

 通話が一方的に切れたと思ったら、コンピューターの方に何かの情報が着信した。シマロンはプリンターから一枚の写真が出てくるのをぼんやりと眺めた。それは1人の中年の男性の顔写真だった。シマロンはその男を知っていた。

 サンダース・・・