2020年7月22日水曜日

蛇行する川 3   −5

 死んでいた男がコロニーから来た賞金稼ぎだとしたら、彼を牛の舌に埋めた人間は賞金首の人物だろう。地球人のふりをしているコロニー人なのか。賞金稼ぎはそいつをどうやって突き止めたのか。
 シマロンはベッドから起き上がった。

 あの重力障害の薬・・・

 広大な地球の表面でたった1人の人間を探し出すとしたら、その人間にしかない特徴を追いかけるしかないだろう。

 重力障害以外の持病があるのかも知れない。

 田舎町の保安官がコロニー人の持病の調査など出来るものだろうか。カリ警部補はシマロンに死んでいた賞金稼ぎデレク・デンプシーが地球に到着してからの足取りを調べてくれと言ったが、恐らくそれはこの事件の担当が正式に決まる迄のことだ。もし郡警察が担当すると決まれば、フォイル辺りが担当になるだろう。シマロンが調べたことをあの刑事は自分の仕事の様に報告書に書く。今までだってそうだ。
 朝になると、シマロンは着替えて店仕舞いする前の居酒屋「びっくりラビット」で朝食を取り、事務所に出勤した。まだ早いかなと思いつつ、カリ警部補に電話を掛けた。警部補はまだ出勤していなかった。急がないから電話をくれとメッセを残して、シマロンは電話を切り、ハーローが出勤するのを待ってから朝のパトロールに出かけた。死体発見からこっちちょっとサボっていたので、出会った人数人から「久しぶりだね」と皮肉を言われた。
 ローカッスルの船着場に到着すると、管理人のベルナルド・サンダースがボートの掃除をしていた。川下でもボートは数隻置いてある。さらに下流へ行く釣り人の為だ。
 シマロンが挨拶をすると、桟橋にいたサンダースがビクリとして振り返った。

「あんたか、保安官、脅かさないでくれ。」
「脅かすつもりはなかったが・・・」
「掃除に精を出していたので、あんたが近くのが聞こえなかったんだ。」

 サンダースは川上のハイカッスルの管理人ウィリアム・ハースに比べると愛想がない。なるべく人と口を利かない努力をしているのかと思えるほど、無駄口を叩かない。

「何か用かい?」
「用と言うほどでもないが、昨日の朝、ここをボートで誰か通らなかったか?」
「昨日の朝? 何時頃だ?」
「そうさな・・・夜明け前か・・・」
「俺は寝てたよ。」
「そうか。家はどの辺りだったかな?」

 サンダースは無言で駐車場の反対側に立っている小さな家を指差した。小屋より立派と言うだけで、シマロンの自宅よりかなり小さい。独り者だし昼間は管理小屋にいるから、サンダースにはあの広さの家で十分なのだろう。

「あの家は、川を通るボートのエンジン音が聞こえるか?」
「古いモーターなら聞こえるだろうが、俺は大概ここにいるから、家で聞こえるかと訊かれてもなぁ・・・」

 サンダースは川を通るボートは全部自分が監視している口ぶりで言った。
 シマロンは川を見た。ボートで川下りするのは面白くないほどの穏やかな水流だ。釣りをする人にはどうなのだろう。

「ここからハイカッスルまでボートで遡るとしたら、どのくらい時間がかかる?」
「ここから上まで?」

 サンダースが胡散臭そうにシマロンを見た。

「今日の様な流れだったら、小一時間もあれば行けると思うが、俺はそんな面倒臭いことはしないから。」
「それはモーターを稼働させて遡った場合だよな?」
「そうだ。」
「手漕ぎで遡れるか?」

 サンダースは川を見た。

「今日の様な流れなら、行ける。時間はもっとかかるだろうが、俺には見当がつかない。」
「昨日の朝もこんな流れだったかな?」

 サンダースはシマロンを振り返った。

「何を知りたいんだ、保安官?」
「移動手段としての川の利用方法さ。」

 シマロンはそう言って、管理人に別れを告げ、車に戻った。ミラーを見ると、土手を上がって来たサンダースがこっちを見つめているのが見えた。
 シマロンは保安官事務所に戻り、コンピューターでクリアクリークの住民録を開いた。そしてベルナルド・サンダースの情報を職権で引き出した。