カフェを出た4人は2台の車で保安官事務所へ引き上げた。事務所前の駐車場にはケンウッド博士が乗ってきた車とサルバトーレが乗ってきた車が並んで停められていた。博士が肩をすくめた。
「帰りは2台で・・・不経済だと副長官に叱られるなぁ。」
「燃料代はドームへ請求が行くんですか?」
「そうしてくれと私が頼んだからね。」
博士は哀しそうな顔でパトロールカーを降りた。シマロンは車を車庫に入れた。ハーローがまだ駐車に手間取っていたので先に事務所の入り口を開けて博士を中に通した。博士が保安官事務所に入ったのは初めてだ。彼が物珍しそうに中を眺めている間にシマロンは留守の間に郡警察本部から入る情報や町内からの連絡事項のチェックを行った。本部からはまだ何も来ていなかった。DNA鑑定で身元が判明しなかったので、保安官事務所に遺体の身元調査の要請を出せないのかも知れない。
サルバトーレが入ってくると、博士と並んで来客用の長椅子に座った。シマロンはそこで博士に打ち明けた。
「遺体の身元はまだわからないんです。遺伝子管理局のDNA鑑定ではデータがなかったそうです。」
ケンウッド博士がシマロンを見つめた。
「データがない? 違法クローンかね?」
「あるいは未登録のコロニー人の可能性もあります。」
博士がポケットからPTPのカケラを出して眺めた。
「死因や死亡推定時期などはわかったのかな?」
「ええ。死因は鈍器による右後頭部殴打に起因する脳の損傷、死亡したのは恐らく一月前と検死結果が出ています。」
「念のために聞くが、この地域で直近一月前から行方不明者の届出は出ているのだろうか?」
「ありません。あれば保安官事務所からすぐに届出のリストを本部に送っています。」
シマロンはハーローを見た。ハーローが、直近半年間行方不明者はいないと言い切った。博士が重ねて尋ねた。
「コロニー人は本当にこの地域に住んでいないのだね?」
「その筈です。」
シマロンは肩を竦めた。
「住民全員の遺伝子検査をした訳じゃありません。選挙の時に投票所の入り口でDNAによる有権者確認をしますが、最後の選挙から3年目です。その間に住民の異動が数件ありましたが、書面による届出ですから。」
サルバトーレがPTPのゴミを見たが、彼には何もわからない様子で沈黙していた。ケンウッド博士は端末を出した。ゴミを側のテーブルの上に置くと、どこかに電話をかけた。暫くして男の声が聞こえた。
「ヤマザキだ。ケンさん、どうした?」
「ヤァ、ケン、ちょっと見てもらいたい物があるんだ。」
「ケンさんの見てもらいたい物って、碌なもんじゃなさそうだな。」
「まぁそう言うなよ、ケン。意外な場所で意外な物を拾ったんだ。」
ケンウッド博士はテーブルの上に置いたゴミの上に端末をかざした。
「これは何処の会社の製造かわかるか?」
「アンチ重力剤か? さて・・・ドームじゃ使わん薬だからなぁ・・・ちょっと待て。」
ハーローがサルバトーレに「誰?」と小声で尋ねた。サルバトーレも低い声で答えた。
「ドームで一番偉いお医者。」
10秒後に医者が電話口に戻った。
「それはスパイラルストリーム社の『ラクラクスキップ』ってヤツだな。」
「地球上ですぐ手に入るのか?」
「真っ当な薬局へ行けば買えるだろう。真っ当な医者の正規処方箋が必要だがね。」
「その真っ当な薬局と言うのは、どの州にでもあるのだろうか?」
「そりゃどの州にでも真っ当な薬局があれば真っ当な医者もいるだろうさ!」
電話の向こうのドームの医者が言った。
「ケンさん、可笑しなことに首を突っ込むんじゃないぞ。アキを振り回したりしてないだろうな?」
「してない、してない。」
と言いつつ、ケンウッド博士は肩を竦めた。シマロンは博士と医者の会話が面白かったので聞き耳を立ててしまったが、ふと気が付いた。森で博士が話していた仲良しの「もう1人の友人」はこの医者ではないのか。
「意外な場所で拾ったと言ってたが?」
「森の散歩道で拾った。」
「それが何か?」
「この地域にコロニー人は住んでいないし、観光客としてのコロニー人もシュリーと私だけだった。」
「それで?」
「それだけだよ。仕事の邪魔をして済まなかったね。」
ケンとケンさんの会話は、ケンウッド博士がそれ以上医師に詮索されるのを嫌って切ってしまったので終わった。
シマロンは博士と目を合わせた。
「博士はあの遺体とこのゴミに何か繋がりがあるとお考えなのですか?」
「どうだろう。」
ケンウッド博士はちょっと遠くを見る目つきになった。
「意外な場所で意外な物を見つけたので興味を引かれただけ・・・かな。しかし、遺体の身元が不明と聞いて、気になってきたのだ。しかし、これは警察の仕事だ。私が口出ししてはいけない。」
シマロンはサルバトーレが微かに笑みを口元に浮かべたことに気が付いた。何か言いたそうで、結局ボディガードは何も言わなかった。
「帰りは2台で・・・不経済だと副長官に叱られるなぁ。」
「燃料代はドームへ請求が行くんですか?」
「そうしてくれと私が頼んだからね。」
博士は哀しそうな顔でパトロールカーを降りた。シマロンは車を車庫に入れた。ハーローがまだ駐車に手間取っていたので先に事務所の入り口を開けて博士を中に通した。博士が保安官事務所に入ったのは初めてだ。彼が物珍しそうに中を眺めている間にシマロンは留守の間に郡警察本部から入る情報や町内からの連絡事項のチェックを行った。本部からはまだ何も来ていなかった。DNA鑑定で身元が判明しなかったので、保安官事務所に遺体の身元調査の要請を出せないのかも知れない。
サルバトーレが入ってくると、博士と並んで来客用の長椅子に座った。シマロンはそこで博士に打ち明けた。
「遺体の身元はまだわからないんです。遺伝子管理局のDNA鑑定ではデータがなかったそうです。」
ケンウッド博士がシマロンを見つめた。
「データがない? 違法クローンかね?」
「あるいは未登録のコロニー人の可能性もあります。」
博士がポケットからPTPのカケラを出して眺めた。
「死因や死亡推定時期などはわかったのかな?」
「ええ。死因は鈍器による右後頭部殴打に起因する脳の損傷、死亡したのは恐らく一月前と検死結果が出ています。」
「念のために聞くが、この地域で直近一月前から行方不明者の届出は出ているのだろうか?」
「ありません。あれば保安官事務所からすぐに届出のリストを本部に送っています。」
シマロンはハーローを見た。ハーローが、直近半年間行方不明者はいないと言い切った。博士が重ねて尋ねた。
「コロニー人は本当にこの地域に住んでいないのだね?」
「その筈です。」
シマロンは肩を竦めた。
「住民全員の遺伝子検査をした訳じゃありません。選挙の時に投票所の入り口でDNAによる有権者確認をしますが、最後の選挙から3年目です。その間に住民の異動が数件ありましたが、書面による届出ですから。」
サルバトーレがPTPのゴミを見たが、彼には何もわからない様子で沈黙していた。ケンウッド博士は端末を出した。ゴミを側のテーブルの上に置くと、どこかに電話をかけた。暫くして男の声が聞こえた。
「ヤマザキだ。ケンさん、どうした?」
「ヤァ、ケン、ちょっと見てもらいたい物があるんだ。」
「ケンさんの見てもらいたい物って、碌なもんじゃなさそうだな。」
「まぁそう言うなよ、ケン。意外な場所で意外な物を拾ったんだ。」
ケンウッド博士はテーブルの上に置いたゴミの上に端末をかざした。
「これは何処の会社の製造かわかるか?」
「アンチ重力剤か? さて・・・ドームじゃ使わん薬だからなぁ・・・ちょっと待て。」
ハーローがサルバトーレに「誰?」と小声で尋ねた。サルバトーレも低い声で答えた。
「ドームで一番偉いお医者。」
10秒後に医者が電話口に戻った。
「それはスパイラルストリーム社の『ラクラクスキップ』ってヤツだな。」
「地球上ですぐ手に入るのか?」
「真っ当な薬局へ行けば買えるだろう。真っ当な医者の正規処方箋が必要だがね。」
「その真っ当な薬局と言うのは、どの州にでもあるのだろうか?」
「そりゃどの州にでも真っ当な薬局があれば真っ当な医者もいるだろうさ!」
電話の向こうのドームの医者が言った。
「ケンさん、可笑しなことに首を突っ込むんじゃないぞ。アキを振り回したりしてないだろうな?」
「してない、してない。」
と言いつつ、ケンウッド博士は肩を竦めた。シマロンは博士と医者の会話が面白かったので聞き耳を立ててしまったが、ふと気が付いた。森で博士が話していた仲良しの「もう1人の友人」はこの医者ではないのか。
「意外な場所で拾ったと言ってたが?」
「森の散歩道で拾った。」
「それが何か?」
「この地域にコロニー人は住んでいないし、観光客としてのコロニー人もシュリーと私だけだった。」
「それで?」
「それだけだよ。仕事の邪魔をして済まなかったね。」
ケンとケンさんの会話は、ケンウッド博士がそれ以上医師に詮索されるのを嫌って切ってしまったので終わった。
シマロンは博士と目を合わせた。
「博士はあの遺体とこのゴミに何か繋がりがあるとお考えなのですか?」
「どうだろう。」
ケンウッド博士はちょっと遠くを見る目つきになった。
「意外な場所で意外な物を見つけたので興味を引かれただけ・・・かな。しかし、遺体の身元が不明と聞いて、気になってきたのだ。しかし、これは警察の仕事だ。私が口出ししてはいけない。」
シマロンはサルバトーレが微かに笑みを口元に浮かべたことに気が付いた。何か言いたそうで、結局ボディガードは何も言わなかった。