2020年7月19日日曜日

蛇行する川 2   −13

「そろそろ我々はお暇するよ。」

 ケンウッド博士が立ち上がった。サルバトーレもそれに続いた。シマロンは2人を出口まで送った。

「朝早くから私の失敗に付き合わせて申し訳なかった。」

と博士が謝罪した。シマロンは首を振った。

「いや、楽しかったです。見ての通り、暇な保安官事務所ですから、森での指輪探しや貴方のゴミからの推理をお聞きするのは滅多にない体験でしたし、勉強になりました。」
「ただコロニー人だから知っていることを偉そうに講釈したまでだよ。私の方こそ警察の仕事をちょこっと見せてもらえて貴重な体験をさせてもらった。有難う。」

 ハーローの方はサルバトーレとの別れを惜しんでいた。

「どうやったらそんな立派な体を作れるのだろう。」

 ハーローは身長はあるが細身で頼りなげに見える。サルバトーレの鍛えられた肉体が羨ましいのだ。トレーニング、とサルバトーレは言った。

「毎日欠かさずトレーニングする、それだけだ。」

 事務所から出て、博士がシマロンを振り返った。

「事件が解決したら教えてもらえないかな? 遺体の発見者として、結末が気になるよ。」
「そうでしょうね。」

 シマロンが名刺を出すと、博士も自身のものを出した。役職は書いておらず、ただ連絡先の電話番号が一つ名前の上にあるだけだ。

「通常、外からドームに電話を掛けると保安課と言う部署で一旦取り次がれる。ドームの職員は直通で話しが出来るが、外の人は内部の人間が電話に出ることを承諾しないと保安課は取り次がないのだ。ちょっと面倒な仕組みなのだがね、200年間そう言う規則になっている。君は警察関係だから、保安課は遺伝子管理局に用事があるのでなく私に掛かって来たと知れば不審に思うだろう。もし要件を聞かれたら、ケンウッドの友人だと答えてくれれば良い。クリアクリークの保安官と友達になったと保安課責任者に告げておくから。」
「保安課は僕の所属部署だから。」

とサルバトーレが言い添えた。

「僕の名前を出してくれても構わない。」
「ドームに遊びに行けないのが残念だな。」

 ハーローが心から残念そうに言った。シマロンがからかった。

「君が妊娠出来れば良かったのにな。」

 4人で大笑いした。それからケンウッド博士とボディガードのサルバトーレはそれぞれ乗ってきた車に再び乗り込んでクリアクリークの町から去って行った。
 車が見えなくなると、ハーローが言った。

「あの博士、本当にドームの長官なんですよね?」
「うん。」
「やっぱり凄い頭の良い人みたいですね。穏やかに喋っているけど、どの言葉も説得力がある。」

 この大陸の人間は皆南北アメリカ大陸ドームで生まれる。シマロンもハーローもヴァンスもサルバトーレもハイデッカーもカリもフォイルも・・・
 シマロンはぼんやりと思った。

 養子になる赤ん坊がどこから来るのか、ケンウッド博士は知っているんじゃないか?