2020年7月24日金曜日

蛇行する川 3   −7

 夕刻近く、シマロンは夜勤当番のハーローの分も一緒に夕食を居酒屋「びっくりラビット」で調達した。今夜はステーキと野菜をピタパンで巻いたサンドイッチだ。まだ熱い紙袋を提げて保安官事務所に帰り着くと、ハーローがコンピューターのモニターの前で真剣な顔をしてデータをプリントアウトしていた。

「何かあったのか?」
「デンプシーが訪問した薬局が回答を寄越して来たんです。」

 シマロンは紙袋をテーブルに放り出し、ハーローの横へ行った。ハーローが機械から吐き出された紙を差し出した。ローズタウンと言う中部地方の都市にある薬局からの回答だった。

ーーお尋ねの画像の人物は、当薬局に来た客かと思われます。コロニー人の重力障害防止の薬剤を常用している顧客はいないかと質問して行きました。当方は顧客の情報を提供することが出来ないと断りました。

 その薬局はデンプシーと思しき客が来た正確な日付は記録していなかった。ただ40日から50日前だったと思う、と書かれていた。
 回答はもう一件あった。やはりローズタウンの薬局だ。

ーー貴事務所がお探しの人物は先月の5日に来店した客と思われます。顧客にコロニー人はいないか、重力障害防止の薬剤を購入する客はいないかと質問しました。顧客の情報を渡すことは出来ないと答えましたが、執拗に尋ねるので、タンブルウィード市の薬局へ譲渡する場合があると答えました。

「タンブルウィード?」

 思わずシマロンは声を上げた。遺伝子管理局支局がある場所、ジェラルド・ハイデッカーのお膝元ではないか。
 ハーローが保安官を見上げた。

「何か、心当たりでも?」
「心当たりと言うほどじゃない。タンブルウィードの遺伝子管理局はハイデッカーが支局長として赴任して来る前は、ブリトニー・ピアーズと言う女性が支局長代理をしていた。ピアーズさんは素敵な人だったが、子育てと業務の両立が難しくなった。3人目の子供ができて、ハイデッカーと交代したんだ。」
「彼女が薬と関係あるんですか?」
「いや、薬が必要だったのは、ピアーズさんの前任者だった。コロニー人だったんだ。」
「え?」

 ハーローは中西部支局で起きた事件を知らなかった。シマロンも詳細は知らないが、事件に関するニュースはテレビで見たことがあった。

「確か、ハリスとかバリスとか言う名前のコロニー人だった。ドームの学者だったが、何か不祥事を起こしてタンブルウィードに飛ばされたんだ。コロニー人が遺伝子管理局の支局長になるのは異例の人事だったから、就任した時は少しばかりニュースになった。」
「タンブルウィードじゃ、ケンウッド博士が言っていた定期的に宇宙に帰ることは難しいですね。」
「そうなんだ。ハリスは7年前に事故死した。死ぬまで何年いたのか・・・4、5年だったかな? それだけの年月を地上で過ごしたから、ハリスは重力障害防止の薬剤を服用していた筈だ。」
「でも、7年前でしょ?」
「ハリスが死んだ後も、ローズタウンの薬局がタンブルウィードの薬局に『ラクラクスキップ』を回送し続けていた。顧客が死んだことを知らなかったか、別の顧客がタンブルウィードに出現したか、だ。」
「タンブルウィードからは回答が来ていませんね。」
「我々が質問したのは、デンプシーが訪ねて行かなかったか、と言うことだったからな。」

 ハーローがコンピューターを操作した。

「タンブルウィードに薬局は3軒あります。」
「マイケル・・・」

 シマロンは助手に指示した。

「明日、タンブルウィードに行って、その3軒を回ってくれないか? 『ラクラクスキップ』を服用している客を聞き出して欲しい。口は固いかも知れないが、粘ってくれ。」
「了解です!」

 ハーローはまたコンピューターを操作して、1人の女性のプロフィールを出した。

「このピアーズさんにも会って、前任者が亡くなった後、薬局に何か連絡したか聞いてきますよ。」