2018年1月21日日曜日

脱落者 1 - 6

 ケンウッドは椅子の上で脱力しそうになった。愛弟子と親友が、爆発現場に居合わせたと言うのか? 彼は副長官が実験に立ち会ったのだと思い当たった。だが、遺伝子管理局長が何故そこにいたのだ?

「死傷者の内訳はわかるか、アーノルド?」
 
 ベックマンがちょっと目を閉じた。部下の報告を思い出しているのだ。数秒後、彼は目を開いた。

「死亡者は損傷が激しく、まだ身元確認が取れておりませんが、現場の責任者ハン・ジュアン博士、リック・カールソン研究員、チャーリー・ドゥーカス研究員と思われます。」

  ああ・・・とケンウッドは呻いた。3人とも良い仕事仲間だった。ハン博士の研究には期待していたのだ。カールソンもドゥーカスも熱心な学者だった。
 ベックマンが続けた。

「負傷者は、ガブリエル・ブラコフ副長官、ローガン・ハイネ・ドーマー遺伝子管理局長、それから薬剤管理室の・・・ええっと・・・マーガレット・エヴァンズ研究員とセシリア・ドーマーです。」
「怪我の具合は?」
「それはまだ私の方では・・・4名共に重体としか・・・」
「重体・・・」

 まだ予断を許さぬと言うことか。ケンウッドは居ても立っても居られない気分だ。

「建物の被害は? 他の部署に及んでいるのか、その・・・」
「1フロアだけです、幸いにも中央研究所の外には何ら影響は出ていません。出産管理区にもクローン製造施設も無事です。」
「ドーマー達に動揺は?」
「現在のところ、報告はありません。爆発の衝撃は研究所のフロアで抑えられましたので、外に居た者にはまだ伝わって居ない模様です。執政官達には、助手のドーマー達に箝口令を出すよう指示しておきました。ロッシーニ・ドーマーが遺伝子管理局本部と連絡を取っています。局長が重体なので、秘書に代行を求めているようです。」

 ケンウッドは現在月が厳戒態勢であるので足止めを食っていること、出来るだけ早く帰る努力をするので、それまではベックマンにドームの維持を委任すると告げた。アメリカ・ドームの4名の管理責任者のうち、2名が重体で1名が月に居るのだ。ベックマンしか残っていなかった。着任してわずか4年の保安課長は固い表情で命令を承った。