2018年1月5日金曜日

購入者 2 - 5

 局員オフィスの前にレインとクロエルがたどり着くと、直属の上司、チームリーダーのダン・シュナイダー・ドーマーが待っていた。

「遅いじゃないか、何回遅れると気が済むのだ?」

 レインはわざとらしく時計を見た。時間制限を設定された覚えはない。

「今日はこれが初めてですが?」

 口答えする部下にシュナイダーはウンザリした表情で指示を出した。

「チーフ・チェイスが局長室で待っておられる。早く行け。」
「チーフが局長室で?」

とクロエルが尋ねた。

「局長がお待ちじゃないんすか?」
「君等を呼び出しているのはチーフだ。」

 シュナイダーはそれ以上説明する気はないようだ。もしかすると彼にも部下達が呼ばれている理由がわからないのかも知れない。

「僕ちゃん達2人共に?」
「そうだ。」

 レインは不安を覚えた。局長とチーフが揃って部下に呼び出しをかける場合、何か大きな仕事が与えられる。転属でまだ落ち着かないのに、何をさせるつもりだろう。
 彼は脱走した恋人ダリル・セイヤーズ・ドーマーを探したい。転属でドームから任地が遠くなった分、捜索の時間が減ってしまって焦っていた。それに局長と共同でチェックしていた遺伝子&住人リストの照合も出来ないでいる。
 クロエルは「何か叱られるようなことをしましたっけ?」と呑気な顔をしていた。この若者はこの世に怖いものなどないような振る舞いをする。恐らく弱気を他人に見せるのが嫌なのだろう。或いは、周囲からいつも愛されてきたので、本当に怖い体験をしたことがないのかも知れない。
 2人はシュナイダーに「お疲れ様でした」と挨拶して、局長執務室に向かった。
 相変わらず寒くて、レインは抗原注射の効力がまだ残っているにも関わらず、風邪を引くのではないかと不安だった。クロエルも大きな身体を時折震わせていた。
 局長執務室の前に来ると、局長第2秘書のネピア・ドーマーが部屋から出て来るのに出くわした。レインはこの真面目な男が苦手だ。冗談が通じないし、セイヤーズ捜索に駆り出されたことを今でも恨みに思っているかの様な目付きでレインを見る。
 ネピアは2人が来ることを知っていたので、ドアを開けて、「入れ」と合図した。そして彼自身は何処かへ立ち去った。