2018年1月23日火曜日

脱落者 3 - 2

 ケンウッドは医療区のロビーに駆け込んだところでヤマザキ・ケンタロウを見つけた。駆け寄ろうとすると、ヤマザキも駆け寄って来た。

「ヤァ、お帰り!」

 いきなりヤマザキが抱きついて来たので、ケンウッドはびっくりした。ヤマザキは親友だが、普段はここまで馴れ馴れしくする人間ではない。ヤマザキの祖先の民族性もあるだろうが、日頃は冷静な男だ。それがガッチリとケンウッドを抱き締めた。そしてケンウッドが口を利く前に医師は耳元で囁いた。

「ここにいる人間は昨日の爆発の負傷者だ。ここのドームで起きたことは知っているが、アフリカ・ドームの事件はドーマーに教えていない。」
「わかった。」

 ケンウッドは自身が早く情報を得ようと焦っていたことを悟った。ヤマザキは咄嗟にそれを知って、長官の頭を冷やしてくれたのだ。
 ヤマザキが体を離したので、ケンウッドは深呼吸した。焦る余り、空港でシャトルを降りるなり、ドームに無我夢中で駆け込んでしまった。消毒を受けた時も足踏みしていたのだ。
 落ち着いて来ると、ロビーに居合わせたドーマーやコロニー人達が自分を見つめているのが目に入ってきた。ケンウッドの頭に、長官としての常識が戻って来た。彼はぐるりと見回して、声を掛けた。

「事故のことは聞いた。君達が大変な目に遭っている時にドームを留守にしていて申し訳なかった。君達の怪我が早く良くなるよう願っている。どうか無理はせずに治療を第一に考えてくれ。」

 ロビーに居た人々が彼に向けて軽く頷いたり、微笑みを見せた。ケンウッドは彼等に手を振り、それからヤマザキに声を掛けた。

「重傷者を見舞えるだろうか?」
「通路から様子を見ることは出来る。部屋の中は医療スッタフ以外立ち入り禁止だ。」

 ヤマザキはケンウッドの後ろで黙って立っている軍人が気になったが、敢えて無視した。爆発事件を調査に来た憲兵に違いない、と思ったからだ。
 ケンウッドが自ら先に立って、良く知った集中治療室に向かう通路を歩き始めていた。

「負傷者はここだね?」
「ガブリエルとハイネはここだ。女性2名は出産管理区に預かってもらっている。人手が足りなかったので、女性は女性の区画で診てもらったんだ。アイダ博士によると、経過は良いらしい。」
「遺体は?」
「遺体もここに安置してある。午後4時に月へ移送するので、3時にお別れの集まりをするとヴェルティエンが言っていた。」

 すると、それまで黙っていた軍人が後ろから声を掛けて来た。

「遺体を月へ送るとは?」

 ヤマザキが立ち止まらずに答えた。

「地球人類復活委員会本部で爆発の原因を調べる為に遺体の本格的な分析をする。それが終わったら、遺族に引き渡す。」
「その結果を防衛隊の憲兵隊本部に教えていただけますか?」
「それは僕にではなく、本部に頼んでくれ。僕等は本部の指示に従っているだけだ。」