2018年1月4日木曜日

購入者 2 - 3

 電力節約の為に食堂のメニューは普段の半分に削られていた。それでもトーストにチーズを載せることは出来たし、卵をたっぷり食べることも、温かいスープやミルクを飲むことも出来たので、ドーマー達もコロニー人達も苦情を申し立てることはなかった。

「維持班から復旧の予定日を聞いたかね?」
「ええ、部品は2日後に届くので、順調に行けばその日の内に停電も解消されるはずです。」
「とんだトバッチリだったな。」

 何気ないケンウッドの言葉に、チーズトーストを齧っていたハイネが動きを止めた。

「トバッチリ? 単純な落下事故ではないのですか?」

 相変わらず鋭く細かいところを突いてくる来る男だ。だがケンウッドはロッシーニが口外するなと言う箝口令を守ったことを評価することにした。

「いや、言葉のアヤだよ。宇宙のゴミ処理管理はきちんとして欲しいものだ。」

 ドーマー達が動き始めた。第一弾が朝食を終えて仕事に出て行き、第2弾のグループが現れ始めた。停電のお陰でテレビが見られないので、誰もが仕事で身体を動かして暖かくしようと言う考えなのだ。
 食事を終えたハイネが立ち上がったので、ケンウッドも立ち上がり、コートを着るのを手伝ってやった。首元のボタンは留めずにマフラーを少し緩めに巻いてやる。ハイネはスマートな長身なのでロングコートも長いマフラーも良く似合っていた。周囲の若いドーマー達がこのハンサムなリーダーを惚れ惚れと見つめているのを、ケンウッドは感じていた。ハイネは後数日で90歳の誕生日を迎えるが、見た目はまだ50歳になるかならないかの若さだ。だから、ダニエル・オライオンの忘れ形見である2人の息子達には会いたくても会えない。進化型1級遺伝子は地球上では存在してはならないものなのだ。そんな稀な遺伝子を持っている説明を一般の地球人に聞かせる訳にいかない。
 2人が食堂から出たところへヤマザキ・ケンタロウ医療区長が入れ替わりにやって来た。

「なんだ、もう食べてしまったのかい?」
「今朝は運動する気になれなくてね。」
「体を動かせば暖かくなるだろう?」
「でもシャワーを使えないじゃないか。」
「ジャグジーで汗を流せばいいさ。」

 ヤマザキはジャグジーの湯がまだ温かいことを指摘して食堂に入って行った。
 ケンウッドとハイネは顔を見合わせた。2人共夕方迄ジャグジーが温かいとは思っていなかった。2日の我慢だ。
 それぞれの職場に別れ、ケンウッドは中央研究所の長官執務室に入った。幸い昨日の暖房の名残が残っていた。上着を着たままで仕事に取り掛かる準備をしていると、秘書達が出勤してきた。第1秘書ヴァンサン・ヴェルティエンは寒さに強いが、第2秘書ジャン=カルロス・ロッシーニはドーマーなので厚着していた。ケンウッドはドーマーを過保護に育てたことをちょっぴり後悔した。地球人はもう少し寒さに平気なはずだが・・・。