2018年1月21日日曜日

脱落者 2 - 4

 ヤマザキはハイネの返答に溜息をついた。出来れば3回の瞬きを見たかった。しかしハイネははっきりと肯定したのだ。セシリア・ドーマーに刺された、と。

「何故僕がそう推理したかは、後で説明するよ。セシリアも生きている。意識はまだないがね。君は身を守る為に彼女を殴ったんだね。」

 瞬き2回。胸を刺されてもなお敵を撃退する気力を持っていたのだ。ヤマザキはローガン・ハイネ・ドーマーの生命力の強さに感動すら覚えた。

「襲われた理由はわかるかい?」

 これは瞬き3回。相手がコロニー人ならいくらでも理由を考えられるだろうが、この犯人はドーマーだ。身内だ。ハイネにもヤマザキにもショックだった。
 ヤマザキは取り敢えずこの件は横に置くことにした。

「ガブリエル・ブラコフは生きている。ただ顔面を火傷とガラス片を浴びた怪我で失った。意識もまだない。手術が終わったのは4時間前で、君より長くかかったんだ。まだ危険な状態だが、僕等は全力を尽くして彼を救う。必ず救ってみせる。」

 ハイネが2回瞬きした。ヤマザキはまた彼の手を握った。

「信じてくれるんだね。有難う。」

そして悲しい事実も告げなければならないことを思い出した。

「マーガレット・エヴァンズは生きているが、ハン・ジュアン博士とリック・カールソン研究員、チャーリー・ドゥーカス研究員は亡くなった。ハン博士はほぼ即死で、2名の助手も救助隊員が駆けつける迄に絶命していた。エヴァンズはセシリアの共犯なのだろうか?」

 ハイネは答えなかった。
 ヤマザキはハイネがアフリカ・ドームで起きたテロを知らないはずだと思った。だからケンウッドがまだ地球に帰って来られないことも知らないのだ。彼はテロのニュースは黙っておくことにした。

「ケンウッド長官はまだ月に居る。宇宙船の不具合でシャトルが飛べないので足止めを食っているのだよ。爆発事故の話をベックマン保安課長から聞かされて大変心配している。アメリカ・ドームは今正副両長官が不在の状態だ。君も動けない。ベックマンが責任者になるが、彼は警備で手一杯だから、ペルラ・ドーマーを呼んだ。中央研究所は長官秘書2名が指示を出してこれから執政官会議を開く。遺伝子管理局はグレゴリーを顧問に君の秘書2名が業務を代行する。君は大人しく治療に専念する。いいね?」

 ハイネが微かに口元を歪めた。苦笑したのだ。ヤマザキはさらに念を押した。

「刃物で刺されたのであれば、傷口が塞がるのは早いのだが、君の傷はギザギザのガラス片で付けられたものだから、治りが遅いと思う。無理に動かすと悪化するから、静かに寝ているんだよ。わかったね?」

 ハイネは、ちょっと間を空けてから、2回瞬きをした。