2018年1月10日水曜日

購入者 3 - 3

 宇宙開拓事業団は、地球人類復活委員会のドーム事業に最も多額の資金を出している出資者だ。彼等が出資する目的は、未知の惑星開拓の為に人間の遺伝子を改造する目的で進化型遺伝子を地球にストックすることだ。だから、本来地球上に存在しないはずの進化型遺伝子を持つ女性の卵子がクローン用に提供され、その遺伝子を受け継ぐ男子の赤ん坊が生まれてくる訳だ。遺伝子管理局長ローガン・ハイネもミヒャエル・マリノフスキーも、逃亡中のダリル・セイヤーズも、ストック用に誕生させられた子供なのだ。
 だが、宇宙開拓事業団が必要とする遺伝子は必ずしも進化型だけとは限らない。人類のオリジナルである地球人の肉体は、宇宙で改良された人類の肉体と比べると劣っているかも知れないが、オリジナルであるが故の利点もたくさんあるのだ。何よりも一番の利点は「代を重ねても簡単には変化しない」ことだ。地球人は何代経ても「人間」なのだ。だから改良型遺伝子を持って生まれた人類に病気が発生した場合、地球人の遺伝子を調べて改良型の何が良くなかったのか発見出来る。それに宇宙では予想しなかった環境の惑星が沢山あるし、それに適応する遺伝子組み替えを行うには、オリジナルが必要だった。
 ハナオカ委員長はケンウッドに言った。

「今回の売り物は、湿度の高い環境に耐え得る人種の遺伝子だ。」

 ケンウッドは数秒間黙してから意見した。

「それは東アジア・ドームのドーマー達の遺伝子でしょう?」
「ケンウッド君、送電ケーブルを購入したのは、アメリカだろう?」

 ああ、そうだった、これは送電ケーブルの代金支払いの話なのだ。ケンウッドは苦い思いを噛み締めた。こちらに落ち度がある訳でないのに、どうしてこんな話になるのだ?

「わかりました。アジア系のドーマーに『お勤め』をさせよ、と言うことですね?」
「そう言うことになるかな。アメリカには南米人もいると思うが・・・」
「ドーマーとして育てたのは移民の子孫です。生粋の南米人は数が少ないし、取り替え子をしようにもコロニー人に同じ人種が見つからないのです。」
「ああ・・・そうだったな・・・」

 アメリカ勤務だった頃を思い出したのか、ハナオカは渋い顔をした。ハナオカもアジア系だな、とケンウッドはぼんやりと思った。残念ながらコロニー人なので売り物として価値がないのだ。
 
「ハイネ局長と相談して、『お勤め』をドーマーに指図します。」
「出来れば3日以内に頼む。4日後に開拓事業団の係の者が地球に降りる予定になっている。それまでに済ませてくれれば、ドーマー達も事業団の連中と直接接触せずに済むだろう。」

 そして最後にハナオカはケンウッドに注意を与えた。

「万が一連中がハイネに興味を持っても、絶対に相手にするな。進化型1級遺伝子は、ケーブル代より遥かに高価なのだからな。」