2018年1月28日日曜日

脱落者 4 - 9

「セシリア・ドーマーとリック・カールソンは恋愛関係にあったのか?」

 とヤマザキが尋ねた。一同は薬剤管理室長を見た。室長は困惑していた。

「コロニー人とドーマーの恋愛は禁じられています。」
「しかしドーマーが被害者だと言う訳ではない。寧ろ彼女はカールソンに愛情を抱いていた様子だぞ。薬剤管理室ではそれを知っていた人はいないのか?」
「セシリアはカールソン研究員の立場を考えて慎重に振舞っていたのでしょう。」

 フォーリーがタブレットに記号の列を書き込み、最後の列を送信してから顔を上げた。

「局長の怪我は、錯乱した女性の仕業だと考えてよろしいか?」
「暗殺ではなさそうですな。」

とベックマンが呟いた。

「局長はセシリアがブラコフに向かって行ったので、間に入って刺されたのだ。普段の彼なら防げただろうが、あの状況では彼も彼女も判断力が落ちていた。動きも鈍ったのだ。」
「すると・・・」

とドナヒュー軍曹が彼女の端末を仕舞いながら言った。

「軍が調査するのは、製薬会社ですね。薬剤がどこですり替わっていたか、調べなければなりません。」
「こちらの人間は関与していないと判断なさるのですか?」

 ケンウッドの質問に彼女は直ぐには答えなかった。

「ローガン・ハイネの怪我の件はこれで解明されたと思います。しかし、薬剤の件は・・・」

 彼女は室長を見た。

「薬剤管理室を暫く業務停止に出来ますか?」

 ケンウッドはびっくりした、室長は真っ赤になった。ケンウッドが抗議した。

「ドームは研究の場です。研究を休止する訳に行かない。薬剤は必要です。」

 軍曹は溜息をついた。彼女はちょっと考え、提案した。

「では、私はこれから大至急月へ戻ります。あちらで上官と話をして来ますから、私が戻る迄薬剤管理室を使用しない範囲で研究なさってくれますか?」

 ヤマザキが「強引だな」と呟いた。医療区も薬剤管理室が必要だ。出産管理区だって妊産婦に異常があれば医療処置を行う。ストックしてある薬剤が足りなければ中央研究所にオーダーが来る。
 するとフォーリー・ドーマーがケンウッドに言った。

「長官、維持班の薬草管理班に連絡を入れておきます。短期間の医薬品なら都合がつく筈です。」

 ヤマザキが頷いた。ドーム維持班は漢方薬を製造している。医療区は時々その恩恵に預かっているのだ。
 ケンウッドはヤマザキの目での合図で、憲兵に妥協することにした。

「わかりました。では、早く行って、早く戻って来てください。」