2018年1月14日日曜日

購入者 4 - 4

 ローガン・ハイネ・ドーマーは遅めの昼食をそろそろ終えようとしていた。食事の後は庭園で昼寝をするのが習慣なのだが、停電騒ぎの後、なんとなく足がそちらへ向かなかった。気温は停電以前より低めに設定されてしまっており、芝生の上に横になるには寒かったのだ。だから昼寝は本部へ戻るかアパートに帰るか、或いは図書館でどこかの読書ブースに入って座ったまま寝るか、何れにしても彼の好みではなかった。
 昼寝が難しいのであれば、しなければ良い。宇宙から来た女達を探しに行こうか、と彼は考えた。ケンウッドに近づくなと言われたが、興味はある。何しろ・・・

 客は女だからな・・・

 彼が立ち上がろうとした時、「ローガン・ハイネ!」と呼ぶ声がした。振り返ると、車椅子に乗った男が近づいてくるところだった。頭髪は真っ白で顔も皺だらけになって、手足は若い頃の面影もなくやせ細っているが、まだ目は力強く光っており、肌の艶も良かった。ハイネは思わず微笑した。相手が彼のテーブルの対面に着くのを待って、「やあ」と声を掛けた。

「久しぶりじゃないか、若い連中をしごきに来たのか?」
「そんなことをしようものなら、鍋の中にぶち込まれてしまいますよ。」

 一般食堂の先代司厨長ジョージ・マイルズ・ドーマーだった。彼は大事そうに膝の上に抱えていた箱をテーブルの上に置いた。

「まだ温かいはずです、味見をしてもらえませんか?」

 彼が箱を開くと、フワリと湯気が立ち上り、甘い香りが広がった。ハイネが思わず満面の笑みを浮かべた。

「チーズの香りだ!」

 マイルズ元司厨長が言った。

「半熟とろとろチーズスフレです。遂に完成したのです。」
「なんと!!」

 ハイネは箱を覗き込んだ。きつね色に焼けた菓子が見えた。彼は元司厨長を改めて見た。

「私の為にわざわざ持って来てくれたのか?」
「当然でしょう。」

 その時、食堂に入って来た2人の老人がいた。どちらも頭髪はハイネに劣らず真っ白で、1人は杖を突いており、もう1人は両の足でしっかりと歩いてハイネのテーブルにやって来た。

「ジョージ、車椅子をかっ飛ばしては危ないじゃないか!」

とエイブラハム・ワッツ・ドーマーが杖で元司厨長を指して言った。

「ジョージはローガン・ハイネに会えると思ったら居ても立っても居られなかったのですよ。」

とグレゴリー・ペルラ・ドーマーが笑いながらワッツを宥めた。ハイネは「黄昏の家」から這い出して来た3人の旧友を眺め、それから菓子に目を落とした。

「取り皿が要るな。それからナイフとフォークも4人前だ。」
「私等は結構ですよ。散々試食させられましたから。」
「そう言わずに、一緒に食べよう。」

 ハイネは素早く配膳コーナーへ行き、新しい皿とフォークとナイフを4人分取って来た。ワッツが笑った。

「チーズが絡むと本当に行動力が半端じゃないんだから・・・」

 宇宙から来た客が一般食堂を覗き込んだ時、白髪の男性が4人、テーブルを囲んでわいわいお茶をしているのが見えた。彼女には誰が誰なのかわからなかった。ハイネは入り口に背を向けていたので。