2018年1月28日日曜日

脱落者 4 - 7

 小会議室に戻ると、爆発の瞬間の実験室内の人々の表情確認が終了したところだった。ケンウッドはセシリア・ドーマーの目が誰かに向けられて、それからハイネの腕が彼女の顔をカメラから隠すのを見た。
 ドナヒュー軍曹が呟いた。

「誰を見たの?」

 彼女は空中映像のセシリア・ドーマーに問いかけたのだ。ビル・フォーリー・ドーマーが軍曹に初めて目を向けた。フォーリーが彼女を見ながらベックマンに言った。

「保安課長、セシリア・ドーマーの目を拡大出来ますかな?」

 遺伝子管理局内務捜査班は滅多に人前に出てこない。班員はほぼスパイ活動に近いので、身分を明かさずに維持班に混ざって仕事をしている。コロニー人が不正を行わないか見張っているのだ。ボスのロッシーニ・ドーマーさえ潜入任務に就いているので、ベックマンはフォーリー以外の内務捜査班の人間を見たことがない。そのフォーリーは普段遺伝子管理局本部に籠って内勤業務をしているので、コロニー人は彼と滅多に口を利いたことがないのだった。ベックマンは、初めてフォーリーの声を聞いた様な気がした。
 ドナヒュー軍曹がフォーリーに有難うと言った。

「ええっと、貴方は・・・」
「ビル・フォーリーです。遺伝子管理局で働いている地球人です。」

 フォーリーはドーマーとは言わなかった。別にこだわった訳ではない。ドナヒューがドームの外から来たコロニー人なので、そう自己紹介しただけだ。
 地球周回軌道防衛隊が遺伝子管理局に関する知識をどの程度持っているのか不明だったが、ドナヒューはそれ以上質問をしなかった。今は爆発事件を捜査中で、ハンサムな地球人男性を調べる時ではない。
 ケンウッドとヤマザキはベックマンが機械を操作している隙に席に着いた。ドナヒュー軍曹がケンウッドに囁いた。

「ご気分は?」
「お恥ずかしい・・・なんとか落ち着きました。」
「ですが、これからが一番酷いシーンですよ。」
「わかっています。」

 弟子と同僚の最後の顔を見るのが辛かったのだ、とは言わなかった。ケンウッドは姿勢を正して、爆発シーンの検証に心を備えた。