2018年1月21日日曜日

脱落者 2 - 5

 朝食を取る為に中央研究所の食堂へ行くと、ドーマー達は何も知らずに普段通りの平和な生活を続けていた。ヤマザキはホッとするものを感じた。昨日の大混乱をロビン・コスビー・ドーマーとジェレミー・セルシウス・ドーマーは秘密裏に片付けたのだ。中央研究所で働くドーマー達も口を閉ざし、自分達のリーダーが重症だと言う事実を秘している。
 執政官会議が始まる迄アパートでちょっと寝ようと思ったところに、アイダ・サヤカ博士が現れた。彼女も昨日は女性薬剤師2名の手術を指示したり集中治療室の準備で大変だったのだ。
 「おはよう」と挨拶して、彼女は彼の正面に座った。トレイの上に軽い朝食を載せていた。お粥と野菜の煮物だ。

「そちらの患者の様子は如何?」
「ハイネは目を覚ましてくれた。意識もしっかりしているが、口はまだ利けない。」
「良かったわ。彼にもしものことがあれば、キーラに何と言えば良いか・・・」

 キーラ・セドウィックの親友はちょっと安堵したのか、涙を落としそうになり、ハンカチで抑えた。

「ガブリエル・ブラコフはまだ予断を許さない状況だ。危機を脱しても傷が深いので復帰に時間がかかる。」

 アイダ博士は自身の端末でブラコフのカルテを見た。顔の損傷の酷さに眉を顰めた。

「可哀相に・・・意思疎通が暫く難しいわね。この火傷では脳波翻訳機の装着も難しいわよ。」
「何とか方法を考えるさ。君に預けた2人の女性だが・・・」
「薬剤管理室もショックを受けているわよ。あの2人が調合した新薬の実験だったのですもの。」
「あの2人が薬品を調合したのか?」
「うーん・・・」

 アイダ博士は額に指を当てて考えた。

「あの2人が開発したんじゃないわね。レシピは木星の製薬会社から送られてきたのよ。ハン博士の計算で開発されたはずだわ。でも送られて来たレシピを見て、エヴァンズが首を傾げていた、って薬剤管理室の主任が言っていたわ。調合したのはセシリアなの。」
「ええ? 木星の製薬会社がハン博士の開発した薬のレシピを送って来て、それをセシリア・ドーマーが調合したのだね?」
「そう言っていたわよ、主任がね。」
「エヴァンズはレシピを見て首を傾げた・・・?」
「ええ。そう聞いたわ。」

 考え込んだヤマザキをアイダは不安そうに見た。

「どうかしたの?」

 ヤマザキが顔を上げた。

「エヴァンズとセシリアは同じ病室か?」
「ええ・・・」
「別々の部屋に入れて、それぞれ監視をつけてくれないか?」
「いいけど・・・どうして?」

 ヤマザキは出産管理区に危険人物を入れてしまったことを後悔した。正直に出産管理区長に説明した。

「爆発があったすぐ後でハイネがセシリアに刺されたんだ。」