結局ケンウッドはワッツとペルラと共に医療区に引き返した。受付に居た夜勤のドーマーが、長官もお忙しいですね、と同情してくれたが、ケンウッドとしては友人達と一緒に居られるのであれば、何時間でも働けた。
最初にブラコフを見舞ったワッツとペルラは、その顔面の有様に驚愕した。
「可哀相に・・・」
ワッツが呟いた。
「私はこの若者が初めてハイネに挨拶した時のことを覚えていますよ。ガチガチに緊張して木偶の坊みたいになって居た。」
「副長官として良く尽くしてくれて居ましたね。」
とペルラ。
「治るのでしょう、長官?」
「勿論さ。時間はかかるが、必ず元どおりに直してやる。」
「アメリカ・ドームのドーマー一同が彼の一日も早い回復を祈っています。」
「有難う、ガブリエルに伝えておくよ。」
彼等はハイネの部屋へ進んだ。ハイネは就寝中だった。壁のパネルでも脳波計が彼が睡眠状態であることを示していた。ガラス越しに眺めていたワッツが呟いた。
「相変わらず可愛い顔をして寝るのですな、ローガン・ハイネは。それにしても顔が綺麗ですね。大きな傷は胸だけのようですが、どうしてですか? 副長官はあんなに酷い傷を負っているのに・・・」
ケンウッドは通路を見回した。警護の保安課員は、長老が2人も長官と共に現れたので、気を利かせて控え室に退がっていた。それでも夜間の医療区は静まり返っており、ヒソヒソ声でも十分聞こえそうだ。彼は提案してみた。
「私のアパートで軽く一杯やらないか? 酒が駄目ならジュースでも・・・」
「長官がドーマーに酒を勧めるのですか?」
ワッツがワザと咎める様に言った。ケンウッドと共にハイネの酒盛りメンバーになっているペルラは苦笑するしかない。
「エイブは飲めそうに見えて下戸なんですよ、長官。」
「そうなのか?」
「だからローガン・ハイネの誘いを3回も断りました。」
「ハイネは君が飲めないのを知らないのか?」
「まさか・・・知ってて誘うのです。そう言うヤツなんですよ。」
嫌がらせではなく、仲間外れにしたくなくて、ハイネはワッツを誘っていたのだ。しかしワッツは酒宴が苦手で誘いに応じなかった。ケンウッドの誘いは酒盛りではない。あまり周囲に知られたくない情報を分けたいから、安全な場所に行こうと言う誘いだ。
ワッツはペルラを見た。
「他でもないケンウッド長官の誘いは断れないな、グレゴリー。」
「当然でしょう。」
「俺はコロニー人の部屋に行くのは初めてだ。」
「私は若い頃に数回・・・」
ケンウッドは思わずペルラの顔を見た。コロニー人がドーマーを部屋に誘うのは自重せよと言うのが、地球人類復活委員会からの通達だ。これは命令系統の中で弱い立場のドーマーをコロニー人の虐待から守る為の処置だ。無理強いすれば地球人保護法に抵触するし、1対1でもあらぬ疑いをかけられかねない。ワッツが承諾したのは、ケンウッドを信頼してくれている証拠だ。だが、ペルラが若い頃にコロニー人の部屋に行ったことがあると言うのは、どう言う意味だ?
3人は医療区を出て男性コロニー人独身者用アパートに向かって歩き出していた。
「私が遺伝子管理局の局員を辞めるきっかけになった背中の火傷が癒える頃です。」
とペルラ・ドーマーが説明した。
「『死体クローン事件』の中心人物ラムジー博士の隠れ家を実際に見たのは、私1人でしたから、内務捜査班やコロニーの連邦警察から何度も事情聴取されました。記憶していることを全て語ったつもりでしたが、もっと細部を思い出してくれと言う執政官がいたのです。」
「執政官? 警察ではなく?」
「執政官でした。もう50年前のことですから、その人は亡くなっているかも知れません。当時でもかなりのお歳でした。私はまだ体調が完全ではなくて、ジムや図書館で話をすると疲れたので、その人はご自分のアパートに私を連れて行き、そこでラムジー博士の研究設備の話を私にさせたのです。試験管の数やら薬品の容器の形状から、兎に角私が記憶していること細部迄聞きたがりました。」
「ラムジーが何を作っていたか、知りたかったのだろう。」
「ハイネ捜査官、今の局長ですが、も同じことを仰いました。」
「君はコロニー人の部屋に行ったことをハイネに伝えたのか?」
「はい、変に疑われても嫌でしたから。」
「長官、この男は遺伝子管理局の人間ですから、若い頃はよくもてたんですよ。私なんか口も利いてもらえないエリートだったんです。」
「私はそんなにツンツンしていなかったよ、エイブ。」
ケンウッドは久しぶりに遠い昔のドームのスキャンダルを思い出した。サタジット・ラムジー、天才的なクローン製造研究者・・・・
あの男が今ここに居たら、ガブリエルの新しい顔を作らせるのに・・・
最初にブラコフを見舞ったワッツとペルラは、その顔面の有様に驚愕した。
「可哀相に・・・」
ワッツが呟いた。
「私はこの若者が初めてハイネに挨拶した時のことを覚えていますよ。ガチガチに緊張して木偶の坊みたいになって居た。」
「副長官として良く尽くしてくれて居ましたね。」
とペルラ。
「治るのでしょう、長官?」
「勿論さ。時間はかかるが、必ず元どおりに直してやる。」
「アメリカ・ドームのドーマー一同が彼の一日も早い回復を祈っています。」
「有難う、ガブリエルに伝えておくよ。」
彼等はハイネの部屋へ進んだ。ハイネは就寝中だった。壁のパネルでも脳波計が彼が睡眠状態であることを示していた。ガラス越しに眺めていたワッツが呟いた。
「相変わらず可愛い顔をして寝るのですな、ローガン・ハイネは。それにしても顔が綺麗ですね。大きな傷は胸だけのようですが、どうしてですか? 副長官はあんなに酷い傷を負っているのに・・・」
ケンウッドは通路を見回した。警護の保安課員は、長老が2人も長官と共に現れたので、気を利かせて控え室に退がっていた。それでも夜間の医療区は静まり返っており、ヒソヒソ声でも十分聞こえそうだ。彼は提案してみた。
「私のアパートで軽く一杯やらないか? 酒が駄目ならジュースでも・・・」
「長官がドーマーに酒を勧めるのですか?」
ワッツがワザと咎める様に言った。ケンウッドと共にハイネの酒盛りメンバーになっているペルラは苦笑するしかない。
「エイブは飲めそうに見えて下戸なんですよ、長官。」
「そうなのか?」
「だからローガン・ハイネの誘いを3回も断りました。」
「ハイネは君が飲めないのを知らないのか?」
「まさか・・・知ってて誘うのです。そう言うヤツなんですよ。」
嫌がらせではなく、仲間外れにしたくなくて、ハイネはワッツを誘っていたのだ。しかしワッツは酒宴が苦手で誘いに応じなかった。ケンウッドの誘いは酒盛りではない。あまり周囲に知られたくない情報を分けたいから、安全な場所に行こうと言う誘いだ。
ワッツはペルラを見た。
「他でもないケンウッド長官の誘いは断れないな、グレゴリー。」
「当然でしょう。」
「俺はコロニー人の部屋に行くのは初めてだ。」
「私は若い頃に数回・・・」
ケンウッドは思わずペルラの顔を見た。コロニー人がドーマーを部屋に誘うのは自重せよと言うのが、地球人類復活委員会からの通達だ。これは命令系統の中で弱い立場のドーマーをコロニー人の虐待から守る為の処置だ。無理強いすれば地球人保護法に抵触するし、1対1でもあらぬ疑いをかけられかねない。ワッツが承諾したのは、ケンウッドを信頼してくれている証拠だ。だが、ペルラが若い頃にコロニー人の部屋に行ったことがあると言うのは、どう言う意味だ?
3人は医療区を出て男性コロニー人独身者用アパートに向かって歩き出していた。
「私が遺伝子管理局の局員を辞めるきっかけになった背中の火傷が癒える頃です。」
とペルラ・ドーマーが説明した。
「『死体クローン事件』の中心人物ラムジー博士の隠れ家を実際に見たのは、私1人でしたから、内務捜査班やコロニーの連邦警察から何度も事情聴取されました。記憶していることを全て語ったつもりでしたが、もっと細部を思い出してくれと言う執政官がいたのです。」
「執政官? 警察ではなく?」
「執政官でした。もう50年前のことですから、その人は亡くなっているかも知れません。当時でもかなりのお歳でした。私はまだ体調が完全ではなくて、ジムや図書館で話をすると疲れたので、その人はご自分のアパートに私を連れて行き、そこでラムジー博士の研究設備の話を私にさせたのです。試験管の数やら薬品の容器の形状から、兎に角私が記憶していること細部迄聞きたがりました。」
「ラムジーが何を作っていたか、知りたかったのだろう。」
「ハイネ捜査官、今の局長ですが、も同じことを仰いました。」
「君はコロニー人の部屋に行ったことをハイネに伝えたのか?」
「はい、変に疑われても嫌でしたから。」
「長官、この男は遺伝子管理局の人間ですから、若い頃はよくもてたんですよ。私なんか口も利いてもらえないエリートだったんです。」
「私はそんなにツンツンしていなかったよ、エイブ。」
ケンウッドは久しぶりに遠い昔のドームのスキャンダルを思い出した。サタジット・ラムジー、天才的なクローン製造研究者・・・・
あの男が今ここに居たら、ガブリエルの新しい顔を作らせるのに・・・