猛吹雪で車の前に道があるのかないのか、全く判別出来なかった。引き返そうにも後ろの道がわからない。最後に出立した村の灯も見えない。外は真っ暗だ。車内温度は57.2度(華氏)、しかし外気温は14度だ。(摂氏14度と氷点下10度)
着衣の保温能力で今暖房を止めても大丈夫だろうとは思えるが、それでも保って5時間だろうか。エネルギーの節約をしなければ、とポール・レイン・ドーマーは思った。彼は寒いのは嫌いなのだが、北米北部班に転属になったので、我慢しなければならない。一緒に転属になったクロエル・ドーマーはまだ納得がいかないようで、隣の席でブルブル震えている。
「なぁんで僕ちゃんがこんな北の国の担当になっちゃうんですかぁ?」
「仕方がないだろ、チーフ会議で局員シャッフルなんてとんでもないことをやってくれたんだから。」
そうなのだ。ほんの数ヶ月前、遺伝子管理局で班チーフ達が突然部下達の入れ替えを提案したのだ。それまで入局の際に決められた班でほぼ異動なく仕事をしてきた局員たちは驚いた。親の出身地で振り分けられていた任地があっさり無視され、籤引きでチーフ達は部下の入れ替えを行ったのだ。しかもローガン・ハイネ局長はチーフ達の決定に全く異を唱えなかった。局長が反対してくれさえすれば、ずっと温暖な地方で働けたのに、とポール・レイン・ドーマーもクロエル・ドーマーも悔やんでいた。特に、今の様な吹雪で道が見えなくなった時は。
分厚い雲を見上げ、位置情報システムがダウンしたことを恨めしく思った。
「雲さえ途切れてくれれば、システムが生き返るのになぁ。」
レインは車のパネルを平手でバンバン叩いた。腹が立って仕方がない。寒いのは嫌いだし、北米南部でのダリル・セイヤーズ・ドーマーの捜索はまだ中途だった。ダリルが北米北部にいる可能性もあるのだが、どこから手をつけて良いのやら、途方に暮れている。
ハイネ局長はまだ住民リストと遺伝子リストの照合を続けてくれているのだが、レインは手伝いに行く時間が取れない。北米北部班のチーフは内勤業務に厳しくて手抜きが出来ないのだ。
「局長はどうして籤引きに反対してくれなかったんすかねぇ・・・」
「気まぐれだろう。」
レインは投げやりな気分で答えた。ハイネ局長は生まれてから一度もドームの外に出たことがない人だ。熱帯の暑さも極地の寒さも知らない。クロエルとレインが寒さに弱いなんて全然思っていないのだろう。 だから、北米北部班チーフ、ウィリアム・チェイス・ドーマーが「一度局員の入れ替えやってみませんか?」とチーフ会議で提案した時に、何も言わなかったのだ。躊躇したのは中米班チーフだけで、南米班と北米南部班のベイル・ドーマーは「面白い」と同意した。その時も局長は何も言わなかった。部下達の決定事項に口出ししない主義を貫いただけなのだろうけど、平の局員から言わせれば、反対して欲しかったのだ。局長が一言「駄目だ」と言ってくれさえすれば・・・。
「僕ちゃん、出世してチーフになります。」
と不意にクロエルが言った。レインが彼を振り返ると、吹雪に似つかわしくない南米人の顔をした彼は言った。
「チーフの気まぐれで部下が苦しむなんて、許されません。」
レインは思わず笑ってしまった。局員シャッフルは決して部下を虐めるために行われたのではない。それは2人共わかっていた。いろんな経験を積んで成長しろと上司達は若者に試練を与えただけなのだ。北米北部だって、天候の穏やかな日は素敵な任地なのだから。
この吹雪は何時止むのだろう、とレインがもう一度空を見上げた時だった。
空の一角で何かがキラリッと光り、いきなり猛烈な光が地上に降り注いだ。レインもクロエルも思わず目を閉じ、顔を伏せてしまった。
空からゴロゴロと雷に似た音が聞こえてきた。
「何なの?」
とクロエルが叫んだ。レインは顔を上げ、窓の外の暗闇に赤い光が尾を引いて駆けていくのを見た。
着衣の保温能力で今暖房を止めても大丈夫だろうとは思えるが、それでも保って5時間だろうか。エネルギーの節約をしなければ、とポール・レイン・ドーマーは思った。彼は寒いのは嫌いなのだが、北米北部班に転属になったので、我慢しなければならない。一緒に転属になったクロエル・ドーマーはまだ納得がいかないようで、隣の席でブルブル震えている。
「なぁんで僕ちゃんがこんな北の国の担当になっちゃうんですかぁ?」
「仕方がないだろ、チーフ会議で局員シャッフルなんてとんでもないことをやってくれたんだから。」
そうなのだ。ほんの数ヶ月前、遺伝子管理局で班チーフ達が突然部下達の入れ替えを提案したのだ。それまで入局の際に決められた班でほぼ異動なく仕事をしてきた局員たちは驚いた。親の出身地で振り分けられていた任地があっさり無視され、籤引きでチーフ達は部下の入れ替えを行ったのだ。しかもローガン・ハイネ局長はチーフ達の決定に全く異を唱えなかった。局長が反対してくれさえすれば、ずっと温暖な地方で働けたのに、とポール・レイン・ドーマーもクロエル・ドーマーも悔やんでいた。特に、今の様な吹雪で道が見えなくなった時は。
分厚い雲を見上げ、位置情報システムがダウンしたことを恨めしく思った。
「雲さえ途切れてくれれば、システムが生き返るのになぁ。」
レインは車のパネルを平手でバンバン叩いた。腹が立って仕方がない。寒いのは嫌いだし、北米南部でのダリル・セイヤーズ・ドーマーの捜索はまだ中途だった。ダリルが北米北部にいる可能性もあるのだが、どこから手をつけて良いのやら、途方に暮れている。
ハイネ局長はまだ住民リストと遺伝子リストの照合を続けてくれているのだが、レインは手伝いに行く時間が取れない。北米北部班のチーフは内勤業務に厳しくて手抜きが出来ないのだ。
「局長はどうして籤引きに反対してくれなかったんすかねぇ・・・」
「気まぐれだろう。」
レインは投げやりな気分で答えた。ハイネ局長は生まれてから一度もドームの外に出たことがない人だ。熱帯の暑さも極地の寒さも知らない。クロエルとレインが寒さに弱いなんて全然思っていないのだろう。 だから、北米北部班チーフ、ウィリアム・チェイス・ドーマーが「一度局員の入れ替えやってみませんか?」とチーフ会議で提案した時に、何も言わなかったのだ。躊躇したのは中米班チーフだけで、南米班と北米南部班のベイル・ドーマーは「面白い」と同意した。その時も局長は何も言わなかった。部下達の決定事項に口出ししない主義を貫いただけなのだろうけど、平の局員から言わせれば、反対して欲しかったのだ。局長が一言「駄目だ」と言ってくれさえすれば・・・。
「僕ちゃん、出世してチーフになります。」
と不意にクロエルが言った。レインが彼を振り返ると、吹雪に似つかわしくない南米人の顔をした彼は言った。
「チーフの気まぐれで部下が苦しむなんて、許されません。」
レインは思わず笑ってしまった。局員シャッフルは決して部下を虐めるために行われたのではない。それは2人共わかっていた。いろんな経験を積んで成長しろと上司達は若者に試練を与えただけなのだ。北米北部だって、天候の穏やかな日は素敵な任地なのだから。
この吹雪は何時止むのだろう、とレインがもう一度空を見上げた時だった。
空の一角で何かがキラリッと光り、いきなり猛烈な光が地上に降り注いだ。レインもクロエルも思わず目を閉じ、顔を伏せてしまった。
空からゴロゴロと雷に似た音が聞こえてきた。
「何なの?」
とクロエルが叫んだ。レインは顔を上げ、窓の外の暗闇に赤い光が尾を引いて駆けていくのを見た。