2018年1月12日金曜日

購入者 3 - 5

 食堂のテーブルで、クロエル・ドーマーは仕事中に体験した面白い出来事や珍しい物を休む暇なく喋った。ケンウッドはそれを心から楽しむことが出来た。クロエルは話し方も上手だ。相手を退屈させず、うんざりさせることもない。

 ヘンリーやケンタロウが常日頃言っているが、この子はドーマーでなければ絶対に芸能界で大成功していただろうな・・・

 1人の人間の輝かしい人生を駄目にしてしまったのだろうか? しかし、クロエルはドームの生活も楽しんでいる。彼は仲間が大好きなのだ。そして一番好きな人物は・・・
 喋っていたクロエルが一つの話に区切りをつけて飲み物を口に含んだ時、誰かが彼の目に入ったようだ。彼は口の中の物をゴックンと飲み込んでから言った。

「御大が来られましたよ!」

 ケンウッドがその視線を追うと、丁度ハイネ局長が食堂に入って来て配膳コーナーに向かうところだった。彼に相談したいことがあったケンウッドが、好都合だと思った時、クロエルが囁いた。

「良かったすね、長官。局長に相談事がおありでしょう?」

え? とケンウッドは驚いて彼に向き直った。何故わかるのだ? しかしクロエルは「エヘヘ」と笑って種明かしをした。

「だって、歩いている間、長官はずっとドーマー達に目を配っていたっしょ? そんな場合、大概貴方は局長か医療区長を探しておられます。」
「へぇ・・・君にはわかるんだ?」
「お互い、長い付き合いじゃないっすか!」

 クロエルは呟いた。

「僕ちゃん達、ドーマーもコロニー人も家族なんすよね。」

 ケンウッドはこのガタイのでかい若者を抱きしめたくなった。体格の良し悪しも大きさも美醜も関係ない。年齢も関係ない。ドーマーは全員彼にとって可愛い子供達だった。
 配膳コーナーで何か一悶着あった様だ。ハイネは暫くそこで足を止め、今月の司厨長が配膳棚の向こうで彼を相手に何かまくし立てていた。
 クロエルが囁いた。

「また御大が何かに文句を言ったんですね?」
「その様だね・・・あの司厨長はやっと彼に口答え出来るようになったんだな。」

 厨房班に喧嘩をふっかけるのは、ハイネ局長の趣味の一つだ。勿論本気で怒っているのではない。ちょっとだけ我儘を言って甘えたいのだ。そして月交代制の3名の司厨長は、それぞれのやり方で彼の相手をする。受け答えのテクニックが研かれ、彼等は他のドーマーや執政官達からの苦情の処理が上手くなっていくのだった。
 やがて決着がついたのか、局長が配膳コーナーから離れ、レジに向かった。彼が視線を食堂内に走らせた時、ケンウッドは片手を挙げて合図した。