アメリカ・ドーム医療区は戦争状態だった。重傷者4名の他に爆発現場から発生したガスを吸い込んで喉や呼吸器官に炎症を起こした執政官やドーマー達10数名の治療、それに死者の検屍もしなければならなかった。
医療区長ヤマザキ・ケンタロウは女性2名の重傷者を出産管理区に託した。出産管理区にも手術室と高度な医療技術を有する医師がいるのだ。出産管理区長アイダ・サヤカ博士は進で負傷者を受け入れてくれた。
ヤマザキは男性2名、ガブリエル・ブラコフ副長官とローガン・ハイネ遺伝子管理局長の手術を外科チームに託した。彼も外科医として働けるが、高度な技術と言われると自信がない。専門は内科だ。だから彼は指揮を執りながら軽傷者の手当を請け負い、最後の患者の治療を終えると遺体の検屍に取り掛かった。ドームに検屍官はいない。だから生者を診る医師が検死をしなければならないのだ。
3人の遺体から検体を採取して保安課に渡した。アーノルド・ベックマン課長がペルラ・ドーマーの手伝いでマザーコンピュータから引き出した遺伝子情報と照合して身元確認をするのだ。
3名の死者は、飛び散ったガラス片で頸動脈を切り、薬品で熱傷を負っていた。顔が焼けただれてしまったので、身元確認に手間取ったのだ。朝、元気に食堂で挨拶を交わした人々が今は物言わぬ遺体になってしまっている。ヤマザキはやりきれない思いだった。事故なのか、それとも・・・?
最後の検死を終え、控え室で水分補給をしていると、外科チームからハイネ局長の手術が終了したと連絡が入った。集中治療室に搬送されたハイネに会いに行ったのは半時間後だった。ブラコフ副長官の手術はまだ終わっていない。
執刀医はヤマザキが集中治療室の入り口から入ってくるのを見ると、ハイネの治療記録を見せた。
「貴方は局長の主治医です。後をお任せしてしてよろしいですか?」
「うん、僕が引き受けよう。副長官はまだオペ室なのだな?」
「彼はガラス片を浴びていますから、除去に時間がかかっています。」
ヤマザキはハイネのカルテを見た。
「ハイネはブラコフと一緒に居たのではなかったのか? あまりガラス片を浴びていないようだが?」
「立ち位置が明暗を分けたのではないかと思います。 局長は背中にガラス片と薬品を浴びていましたが、白衣が身を守ったみたいです。爆発の瞬間に体を丸めて防いだのではないですか?」
「ブラコフは白衣なしで部屋に入ったのか?」
「いえ、副長官も白衣を着用されていましたので、首から下は大丈夫でした。しかし、顔面が・・・」
ヤマザキは手術前に見たブラコフの様子を思い出した。ブラコフ副長官は、確かに副長官だと所持していた端末で判明する迄誰なのかわかならなかった。顔が血まみれで焼けただれていたのだ。生きているのが不思議なほどのダメージだった。ブラコフの手術に時間がかかっているのは、肉にめり込んだガラス片除去に手間がかかっているからだ。そして薬品による熱傷の手当も急を要した。
ヤマザキはもう一度ハイネのカルテを見た。ハイネが負った一番大きな傷は左胸に刺さったガラス片によるものだった。ヤマザキは執刀医に確認した。
「ハイネは白衣の背中にガラス片と薬品飛沫を浴びていたのだね?」
「そうです。」
「前面は? 体の表側にもガラス片と薬品を浴びていたか?」
「いいえ、胸に刺さった大きなガラス片1つだけでした。それが冠状動脈を傷つける恐れがあったので、手術に慎重を要したのです。」
ヤマザキは執刀医の顔を見た。執刀医も彼を見返した。
「ヤマザキ博士・・・」
と執刀医が声を低くして言った。
「局長の胸の怪我は爆発によるものではありません。誰かに刺されたのではありませんか?」
医療区長ヤマザキ・ケンタロウは女性2名の重傷者を出産管理区に託した。出産管理区にも手術室と高度な医療技術を有する医師がいるのだ。出産管理区長アイダ・サヤカ博士は進で負傷者を受け入れてくれた。
ヤマザキは男性2名、ガブリエル・ブラコフ副長官とローガン・ハイネ遺伝子管理局長の手術を外科チームに託した。彼も外科医として働けるが、高度な技術と言われると自信がない。専門は内科だ。だから彼は指揮を執りながら軽傷者の手当を請け負い、最後の患者の治療を終えると遺体の検屍に取り掛かった。ドームに検屍官はいない。だから生者を診る医師が検死をしなければならないのだ。
3人の遺体から検体を採取して保安課に渡した。アーノルド・ベックマン課長がペルラ・ドーマーの手伝いでマザーコンピュータから引き出した遺伝子情報と照合して身元確認をするのだ。
3名の死者は、飛び散ったガラス片で頸動脈を切り、薬品で熱傷を負っていた。顔が焼けただれてしまったので、身元確認に手間取ったのだ。朝、元気に食堂で挨拶を交わした人々が今は物言わぬ遺体になってしまっている。ヤマザキはやりきれない思いだった。事故なのか、それとも・・・?
最後の検死を終え、控え室で水分補給をしていると、外科チームからハイネ局長の手術が終了したと連絡が入った。集中治療室に搬送されたハイネに会いに行ったのは半時間後だった。ブラコフ副長官の手術はまだ終わっていない。
執刀医はヤマザキが集中治療室の入り口から入ってくるのを見ると、ハイネの治療記録を見せた。
「貴方は局長の主治医です。後をお任せしてしてよろしいですか?」
「うん、僕が引き受けよう。副長官はまだオペ室なのだな?」
「彼はガラス片を浴びていますから、除去に時間がかかっています。」
ヤマザキはハイネのカルテを見た。
「ハイネはブラコフと一緒に居たのではなかったのか? あまりガラス片を浴びていないようだが?」
「立ち位置が明暗を分けたのではないかと思います。 局長は背中にガラス片と薬品を浴びていましたが、白衣が身を守ったみたいです。爆発の瞬間に体を丸めて防いだのではないですか?」
「ブラコフは白衣なしで部屋に入ったのか?」
「いえ、副長官も白衣を着用されていましたので、首から下は大丈夫でした。しかし、顔面が・・・」
ヤマザキは手術前に見たブラコフの様子を思い出した。ブラコフ副長官は、確かに副長官だと所持していた端末で判明する迄誰なのかわかならなかった。顔が血まみれで焼けただれていたのだ。生きているのが不思議なほどのダメージだった。ブラコフの手術に時間がかかっているのは、肉にめり込んだガラス片除去に手間がかかっているからだ。そして薬品による熱傷の手当も急を要した。
ヤマザキはもう一度ハイネのカルテを見た。ハイネが負った一番大きな傷は左胸に刺さったガラス片によるものだった。ヤマザキは執刀医に確認した。
「ハイネは白衣の背中にガラス片と薬品飛沫を浴びていたのだね?」
「そうです。」
「前面は? 体の表側にもガラス片と薬品を浴びていたか?」
「いいえ、胸に刺さった大きなガラス片1つだけでした。それが冠状動脈を傷つける恐れがあったので、手術に慎重を要したのです。」
ヤマザキは執刀医の顔を見た。執刀医も彼を見返した。
「ヤマザキ博士・・・」
と執刀医が声を低くして言った。
「局長の胸の怪我は爆発によるものではありません。誰かに刺されたのではありませんか?」