2018年1月14日日曜日

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 グラッデンとバルトマンは昼食を終えるとゲストハウスで帰りのシャトル迄の時間をゆっくり過ごしたいと言った。それでケンウッドとブラコフは彼女達をゲストハウスに送って中央研究所に戻った。2人で歩いている時、ふとケンウッドは副長官に尋ねた。

「君は彼女がいるのかな?」

 ブラコフはギョッとした表情で長官を見た。

「なんです、唐突に?」
「いや・・・つまり、女性の扱いに慣れているのかな、と思って・・・」

 ブラコフは毎月半ば頃、2日間の有給休暇を取って実家がある火星第1コロニーへ帰る。ケンウッドの手持ちの情報では、彼の両親は離婚しているが双方まだ元気でそれぞれ別の家庭を築いているとある。ブラコフが帰るのは母親が住んでいる所だが、母親と2日間べったりと言うことはないだろう。母親にはガブリエル以外にも子供がいるのだ。ケンウッドはブラコフには恋人がいるのではないかと疑っていた。
 副長官が苦笑した。

「今日の客のことを仰っているのでしたら、私は彼女達を女性とは意識せずにただの客だと思っています。」

 ケンウッド長官は独身だが、若い頃はもてたと長官の昔を知る火星の知人に聞いたことがあったので、ブラコフは長官こそ何故恋人を作らないのだろうと疑問に思っていた。研究者仲間の女性とは普通に接しているし、女性ドーマーにも男性ドーマー同様に声を掛けている。慣れているのは長官の方ではないのか、と思った。

「今日の客だが・・・」

 ケンウッドが声を低くした。

「なんだか違和感を感じるのは、私だけだろうか?」
「違和感?」
「過去の女性の訪問者は、ほとんどが出産管理区を見たがった。クローン製造施設も中を見たいと要求して来たものだ。しかし、今日の客は2人とも無関心だ。この地球人類復活委員会の出資者なのに、ドームの一番重要な場所に関心を持たないとはどう言うことだ?」

 ブラコフが足を止めた。ケンウッドが振り返ると、彼はゲストハウスを見ていた。

「そうですね・・・赤ん坊に関心を示さない女性は少なくありませんが、なんだかおかしいです。ただのお遣いだとしても、宇宙開拓事業団の職員なら、もっとドーム事業の本質に興味を示すはずです。本社に報告する任務もあるでしょうし・・・」

 ブラコフがゲストハウスの方へ戻り掛けたので、ケンウッドは腕を掴んだ。

「行ってどうする? 保安課に監視させるのだ。」