2018年1月28日日曜日

脱落者 4 - 3

 映像再生が始まった。

 ブラコフは実験台のすぐそばに立った。ハイネは彼より1歩後ろ、斜め横に立ち、その隣にエヴァンズ、セシリアの順に女性薬剤師が立った。台の反対側に3人の研究者が並んで居る。真ん中のハン・ジュアン博士が主成分の薬品が入ったフラスコを手に持った。記録用カメラに向かい、薬品の名前、成分、これから加える触媒の名前、成分、調合した後の薬品の期待される効果を語った。
 そしてフラスコを台に置き、触媒の一つをスポイトで吸い上げた。

 ドナヒュー軍曹が声を掛けた。

「すみません、各自の表情を見たいので拡大していただけません?」

 ベックマンは無言で彼女の希望に従った。
 立体映像の上に、実験室内にいた7名の顔がそれぞれ映し出された。全員マスクを装着しているので表情は目だけで判断するしかない。ハン博士と2名の助手は真剣だ。彼等は3人共にスポイトとフラスコを見つめている。ブラコフは目の前で使用されている薬剤の変化に詳しくないのだろう、やはりフラスコを見ているが、ハン博士の様な鋭さは彼の視線になかった。だが彼も研究者だ。いい加減な気持ちで見ているのではない。その点ではハイネも同じで、薬剤師からは引退しているのでただ興味があって見ている。本当にその薬剤が羊水分析に大きな効果を出してくれるのかと、それだけが彼の関心を引いていた。女性2人は微妙に違った。セシリア・ドーマーは食い入る様な真剣な眼差しでハン博士の手元を見つめていた。何かが起きる瞬間を見逃すまいとしているかの様だ。マーガレット・エヴァンズは視線を動かして台の反対側の人々を見ている。薬品には興味がないのだろうか。
 ドナヒューがまた頼んだ。

「女性2人をもう一度見せて下さい。」

 彼女は2人の薬剤師を交互に見比べ、何か考え込み、そして映像を元に戻して続きを見せて下さい、と言った。ベックマンは他の人の意見を求めるように見回したが、誰も異存がない様子だったので、ドナヒューに頷いて見せ、再生ボタンを押した。
 ハン博士がスポイトの中の薬品をフラスコに1滴落とした。透明な主薬剤の中に緑色の触媒がゆっくりと落ち込み、緑色が広がりながら黄色に・・・。
 薬剤師の1人が叫んだ。

「そんな馬鹿な!」