2018年1月28日日曜日

脱落者 4 - 5

 主薬の中に落とされた1滴の触媒の色が緑色から黄色に変化した途端、ローガン・ハイネ局長が叫んだ。「伏せろ!」と。

「停めて!」

とドナヒュー。

「その場面の全員の表情を見せて下さい。」

 ベックマンは面倒くさがらずに機械を捜査して、実験室の人々の表情を出した。まず、変化に気づいて警告を出したハイネ局長は、穏やかな表情を瞬時に硬化させた。色の変化で危険を察知したのだ。青みがかった薄い灰色の目が大きく見開かれた。正真正銘、驚いていた。

「彼は薬剤に詳しいのですか?」
「彼は元薬剤師ですよ、軍曹。」

 黙り込んでしまっている薬剤室長の代わりにケンウッドは答えた。あの瞬間の親友の胸の内を想像した。想像を絶する恐怖を彼は感じたのだろうか? それとも室内の人々を救おうと思ったか? 本能的に危険を察して叫んだだけか?何れにしても、ケンウッドは心の中で呟いていた。

 怖かっただろう? ハイネ・・・

 ガブリエル・ブラコフは何の表情もなかった。爆発に巻き込まれる瞬間迄何も疑っていない。可哀相に、とケンウッドはまた切なくなった。無邪気な若者の笑顔をまた見られる日が来るだろうか?
 ハン博士は変化の異常に気が付いた。両目を見開いた。アッとマスクの下で叫んだはずだ。それが彼の人生の最後の反応だった。ケンウッドは辛くなってきた。残りの2名の映像を見る勇気が潰えた。

「申し訳ない、ちょっと外に出ている。」

 自身ではしっかり立ち上がったつもりだったが、よろめいてしまった。ヤマザキ医師も立ち上がった。

「落ち着いたら戻るから、進めて下さい。」

 医師はそうベックマンに告げ、ケンウッドの肩を支えてドアに向かった。