カレン・ドナヒュー軍曹が戻ってくるのが目に入ったので、2人はその件に関する会話を中断した。地球人の特殊能力について軍関係者に情報を与えたくなかった。逃亡中のダリル・セイヤーズの話題を出すのも以ての外だ。
「ご気分はいかがですかな?」
ケンウッドが彼女に尋ねた。ドナヒュー軍曹は澄まし顔を努めて保った。
「気分が悪くなった訳ではありません。でもお気遣い有り難うございます。」
そして彼女は初めてヤマザキ医師に向かい合った。ケンウッドもまだ紹介していなかったことに気が付いた。
「紹介が遅れました。こちらは我がアメリカ・ドームの医療区長ヤマザキ博士です。博士、こちらは地球周回軌道防衛隊のドナヒュー軍曹だ。憲兵として今回の事故の調査に来ている。」
ヤマザキとドナヒューは真面目に「よろしく」と挨拶したが、握手はしなかった。ヤマザキが手を出さなかったのだ。彼はケンウッドに向かって言った。
「ハイネは一つ向こうの部屋だ。」
3人は移動した。ガラス越しにベッドで寝ているドーマーが見えてくると、ドナヒュー軍曹が歩調を早め、2人の男を追い越してハイネの部屋の前に立った。ガラスに手を当てて中を覗き込んだ。
「本物のローガン・ハイネだわ!」
ケンウッドとヤマザキは顔を見合わせて、肩をすくめた。軍曹が一瞬ミーハーな女性に見えた。
ハイネは目を閉じていた。覚醒しているのか眠っているのか判断出来なかった。彼の顔に装着されたマスクをケンウッドは哀しそうに見つめた。ハイネは10年前のγカディナ黴感染事故で肺を痛めてしまった。それなのに、今度は薬品による火傷だ。いかに若さを保つ長寿の遺伝子を持っていても、これはヤバイのではないか?
余程悲壮な目つきをしていたのだろう、ヤマザキがちょっと苦笑して囁いた。
「ハイネは爆発の瞬間何が起こるのかわかって背中を爆心に向けたそうだ。だから薬品もガラス片も体の前面には浴びていない。白衣が彼の背中を守ってくれたので、爆発で彼が負ったダメージは喉と気道の軽度の火傷だ。薬を塗っておいたから2、3日で良くなる。だけど、胸の刺し傷が酷いので、体を動かさないよう、彼には肺のダメージが大きいので動くなと言ってあるんだ。」
ケンウッドは彼を振り返った。
「肺は大丈夫なのか?」
「うん。咳き込むことはあるが、今後の生活に影響はない。」
良かった、とケンウッドは呟いた。ハイネはまた運動出来るのだ。激しいものでなければ、一緒に走ったり泳いだり出来るだろう。
するとドナヒュー軍曹が割り込んで来た。
「さっきのドクターのお話ですと、ローガン・ハイネは意識を取り戻したのですか?」
ヤマザキは彼女のキラキラと期待を込めて光る目を見た。素早く予防線を張った。
「今日の未明にね。だけど、水分補給をしてやるとまた眠ってしまった。彼は体調が悪い時は眠って治すんだ。起こさないでやってくれ。起こしてもまだ口は利けないから。」
「ご気分はいかがですかな?」
ケンウッドが彼女に尋ねた。ドナヒュー軍曹は澄まし顔を努めて保った。
「気分が悪くなった訳ではありません。でもお気遣い有り難うございます。」
そして彼女は初めてヤマザキ医師に向かい合った。ケンウッドもまだ紹介していなかったことに気が付いた。
「紹介が遅れました。こちらは我がアメリカ・ドームの医療区長ヤマザキ博士です。博士、こちらは地球周回軌道防衛隊のドナヒュー軍曹だ。憲兵として今回の事故の調査に来ている。」
ヤマザキとドナヒューは真面目に「よろしく」と挨拶したが、握手はしなかった。ヤマザキが手を出さなかったのだ。彼はケンウッドに向かって言った。
「ハイネは一つ向こうの部屋だ。」
3人は移動した。ガラス越しにベッドで寝ているドーマーが見えてくると、ドナヒュー軍曹が歩調を早め、2人の男を追い越してハイネの部屋の前に立った。ガラスに手を当てて中を覗き込んだ。
「本物のローガン・ハイネだわ!」
ケンウッドとヤマザキは顔を見合わせて、肩をすくめた。軍曹が一瞬ミーハーな女性に見えた。
ハイネは目を閉じていた。覚醒しているのか眠っているのか判断出来なかった。彼の顔に装着されたマスクをケンウッドは哀しそうに見つめた。ハイネは10年前のγカディナ黴感染事故で肺を痛めてしまった。それなのに、今度は薬品による火傷だ。いかに若さを保つ長寿の遺伝子を持っていても、これはヤバイのではないか?
余程悲壮な目つきをしていたのだろう、ヤマザキがちょっと苦笑して囁いた。
「ハイネは爆発の瞬間何が起こるのかわかって背中を爆心に向けたそうだ。だから薬品もガラス片も体の前面には浴びていない。白衣が彼の背中を守ってくれたので、爆発で彼が負ったダメージは喉と気道の軽度の火傷だ。薬を塗っておいたから2、3日で良くなる。だけど、胸の刺し傷が酷いので、体を動かさないよう、彼には肺のダメージが大きいので動くなと言ってあるんだ。」
ケンウッドは彼を振り返った。
「肺は大丈夫なのか?」
「うん。咳き込むことはあるが、今後の生活に影響はない。」
良かった、とケンウッドは呟いた。ハイネはまた運動出来るのだ。激しいものでなければ、一緒に走ったり泳いだり出来るだろう。
するとドナヒュー軍曹が割り込んで来た。
「さっきのドクターのお話ですと、ローガン・ハイネは意識を取り戻したのですか?」
ヤマザキは彼女のキラキラと期待を込めて光る目を見た。素早く予防線を張った。
「今日の未明にね。だけど、水分補給をしてやるとまた眠ってしまった。彼は体調が悪い時は眠って治すんだ。起こさないでやってくれ。起こしてもまだ口は利けないから。」