2018年1月7日日曜日

購入者 2 - 7

 ニコラス・ケンウッド長官が遅めの夕食を取りに一般食堂に行くと、ハイネ局長が部下達と一緒にテーブルを囲んでいるのが目についた。局長が大勢と食事をするのは珍しかったので、彼は遺伝子管理局のメンバーばかりだったが気にせずに声を掛けた。

「今夜は賑やかだね。私も同席しても構わないかな?」

 地球人達が振り向いた。局長の他にテーブルに居たのは、第1秘書セルシウス・ドーマー、北米北部班チーフ、チェイス・ドーマー、それに彼の部下レイン・ドーマーとクロエル・ドーマーだった。第2秘書の姿が見えないと思ったら、彼はまだ配膳コーナーで何かを迷ってうろうろしていた。
 テーブルの面々が微笑んだ。

「どうぞ! ご遠慮なく!」

 彼等は皆ケンウッド長官の気さくな人柄が好きだった。ケンウッドはハイネと向かい合う席に座った。そこしか空いていなかったのだ。8人用のテーブルなのだが、残りの1席にはケンウッドにはあまり馴染みのない北米北部班第5チームのリーダー、シュナイダー・ドーマーが居た。上司が揃っているので、レインとクロエルは静かだ。特にクロエル・ドーマーは大人し過ぎる。ケンウッドの両隣になる平の2人は抗原注射効力切れなのかと思ったが、レインは元々無愛想だし、クロエルは注射不要の体だ。

「お待たせしました。」

 ネピア・ドーマーが戻ってきた。ケンウッドに気が付いて、こんばんは、と挨拶した。
するとセルシウス・ドーマーがノンアルコールのワインのグラスを手に取って食事開始の挨拶をした。

「では、停電で滅多に味わえない寒さに乾杯!」
「乾杯!」

 何故寒さに乾杯するのかわからないが、一種の冗談なのだろう。チェイスやシュナイダーは局長同様笑っているが、レインとクロエルは固い表情だった。だから食事が始まって数分後に、ケンウッドは思い切って声を掛けた。

「クロエル、元気がないようだが、外で風邪でも引いたか?」

 無菌状態で育ったドーマーばかりの世界で風邪を引いた人間がいると大変なことになる。ゲイトの消毒班がしっかり仕事をしているはずだが、肺の中迄は消毒出来ない。
ケンウッドの質問は半分冗談で半分真剣なものだった。
 セルシウスが笑った。

「長官、この若者達はさっき班チーフに叱られたばかりなのですよ。」
「叱られた?」

 ケンウッドはレインとクロエルを交互に見比べた。

「何をやらかしたんだ?」
「やったんじゃありません。やらなかったから叱られたんです。」

とチェイスが言った。

「真面目に報告書を書かなかったんですよ。」