執刀医が出て行くと、ヤマザキ・ケンタロウはハイネのベッドに近づいた。ハイネは呼吸マスクを装着されていたが、その美しい顔に目立つ傷はなかった。3名の死者とブラコフ副長官が判別もつかないほどの火傷を負ったことを考えると奇跡だ。執刀医が証言した様に白衣を着用した背中に薬品とガラス片を浴びたとすると、ハイネは爆発の瞬間に何が起きるかを察知して咄嗟に背中を向け、頭を下げたのだ。
ヤマザキは残りの2名の生存者、マーガレット・エヴァンズとセシリア・ドーマーのカルテを端末で呼び出した。2名の手術も終わっていて、出産管理区は一晩様子を見てから医療区に搬送するか否か決めると言っていた。
エヴァンズはガスを吸い込んで肺に軽い火傷を負っていた。脳内出血を起こしたが、それは後頭部の打撲が原因で、爆発の時に後ろ向きに倒れて床で殴打したのだろう。ガラス片と薬品は手に少しだけ浴びていたが、これは命に関わる程ではなかった。彼女の手術は頭部の傷に重点を置かれていた。
セシリア・ドーマーはやはり肺に軽い火傷を負っていた。彼女の傷は右顔面と後頭部の打撲だ。ヤマザキは透視画像を見て、奇異に感じた。後頭部の傷はエヴァンズの物と似ていた。床に打ち付けたのだろうが、内出血を起こす程ではない。顔面は鼻骨が折れ、誰かに殴られた様な感じだ。そして右の掌と指に裂傷を負っていた。ガラスの破片を摘出したとカルテにある。飛散したガラス片が刺さったと言うのはなく、切ったみたいな傷だ。
ヤマザキは考え込んだ。ガブリエル・ブラコフのカルテを検索して見た。ブラコフは後頭部に軽い打撲傷を受けていた。顔の傷が大き過ぎて重体に陥っているが、体の他の部分の傷は軽い。
執刀医はハイネの胸の傷はガラスが刺さったのではなく、ガラスで刺されたと思われると言った。
ヤマザキはハイネを覗き込んだ。彼の・・・彼と親友達の大切な「僕等のドーマー」は色白の肌をさらに青ざめた血の気のない顔で、それでも必死で生きようと息をしていた。ヤマザキは彼の右腕をそっと掴んだ。小指から下方向に青あざがあった。何かで打ち付けたのか? ヤマザキはハイネの腕を下ろして、またセシリアのカルテを見た。顔面の打撲傷を見た。
まさか、ハイネの手刀を食らったのか?
セシリア・ドーマーの手の画像を見た。ガラスの破片を握って怪我をしたのか? そうだとしたら、ハイネを刺したのはこの女なのか?ハイネは刺されて、彼女を退けようと手刀で女の顔を打ったのだろうか。
だが、何故ドーマーが局長を襲うのだ?
ヤマザキは集中治療室を出た。医療区はまだ騒めきの中にあった。彼はベックマン保安課長に電話を掛けた。深夜だが、保安課長はまだ休めないでいた。
「ベックマン課長、ヤマザキだ。」
「ヤマザキ先生・・・副長官と遺伝子管理局長の容体は?」
「ハイネは手術が終わって観察下に入った。ブラコフはまだオペ室だ。」
ヤマザキは疲れている保安課長を消耗させたくなかったが、必要なことを言わなければならなかった。
「テロか事故かわからないが、誰かがハイネを暗殺しようとした形跡がある。」
ベックマンが一瞬息を飲んだ。
「何ですって・・・?!」
「怪我の状況を見ての推測だから、断定は出来ない。爆発現場の記録映像を見たい。モニターしてあるよな?」
「勿論です。これから調べます。」
「いや、君も疲れているだろう、モニター映像を見るのは明日にしよう。今夜はハイネの部屋に保安課員を警護につけて欲しい。犯人は近づけないと思うが、用心に越したことはないからね。」
ヤマザキが「明日」と言ったのは、セシリア・ドーマーが昏睡状態にあったからだ。
ヤマザキは残りの2名の生存者、マーガレット・エヴァンズとセシリア・ドーマーのカルテを端末で呼び出した。2名の手術も終わっていて、出産管理区は一晩様子を見てから医療区に搬送するか否か決めると言っていた。
エヴァンズはガスを吸い込んで肺に軽い火傷を負っていた。脳内出血を起こしたが、それは後頭部の打撲が原因で、爆発の時に後ろ向きに倒れて床で殴打したのだろう。ガラス片と薬品は手に少しだけ浴びていたが、これは命に関わる程ではなかった。彼女の手術は頭部の傷に重点を置かれていた。
セシリア・ドーマーはやはり肺に軽い火傷を負っていた。彼女の傷は右顔面と後頭部の打撲だ。ヤマザキは透視画像を見て、奇異に感じた。後頭部の傷はエヴァンズの物と似ていた。床に打ち付けたのだろうが、内出血を起こす程ではない。顔面は鼻骨が折れ、誰かに殴られた様な感じだ。そして右の掌と指に裂傷を負っていた。ガラスの破片を摘出したとカルテにある。飛散したガラス片が刺さったと言うのはなく、切ったみたいな傷だ。
ヤマザキは考え込んだ。ガブリエル・ブラコフのカルテを検索して見た。ブラコフは後頭部に軽い打撲傷を受けていた。顔の傷が大き過ぎて重体に陥っているが、体の他の部分の傷は軽い。
執刀医はハイネの胸の傷はガラスが刺さったのではなく、ガラスで刺されたと思われると言った。
ヤマザキはハイネを覗き込んだ。彼の・・・彼と親友達の大切な「僕等のドーマー」は色白の肌をさらに青ざめた血の気のない顔で、それでも必死で生きようと息をしていた。ヤマザキは彼の右腕をそっと掴んだ。小指から下方向に青あざがあった。何かで打ち付けたのか? ヤマザキはハイネの腕を下ろして、またセシリアのカルテを見た。顔面の打撲傷を見た。
まさか、ハイネの手刀を食らったのか?
セシリア・ドーマーの手の画像を見た。ガラスの破片を握って怪我をしたのか? そうだとしたら、ハイネを刺したのはこの女なのか?ハイネは刺されて、彼女を退けようと手刀で女の顔を打ったのだろうか。
だが、何故ドーマーが局長を襲うのだ?
ヤマザキは集中治療室を出た。医療区はまだ騒めきの中にあった。彼はベックマン保安課長に電話を掛けた。深夜だが、保安課長はまだ休めないでいた。
「ベックマン課長、ヤマザキだ。」
「ヤマザキ先生・・・副長官と遺伝子管理局長の容体は?」
「ハイネは手術が終わって観察下に入った。ブラコフはまだオペ室だ。」
ヤマザキは疲れている保安課長を消耗させたくなかったが、必要なことを言わなければならなかった。
「テロか事故かわからないが、誰かがハイネを暗殺しようとした形跡がある。」
ベックマンが一瞬息を飲んだ。
「何ですって・・・?!」
「怪我の状況を見ての推測だから、断定は出来ない。爆発現場の記録映像を見たい。モニターしてあるよな?」
「勿論です。これから調べます。」
「いや、君も疲れているだろう、モニター映像を見るのは明日にしよう。今夜はハイネの部屋に保安課員を警護につけて欲しい。犯人は近づけないと思うが、用心に越したことはないからね。」
ヤマザキが「明日」と言ったのは、セシリア・ドーマーが昏睡状態にあったからだ。